一字千金

2017-01-01

Vol.15-顧客視点の重視- 事業「判定は販売店、結果は顧客」

奥井俊史/アンクル・アウルコンサルティング代表

メーカーと販売店の総合的な格差の拡大が、大きくかつ多様になってきていることが、かつて販売に携わってきた者として気になっている。メーカーは国内市場のみならず、海外市場にも販路を持って多様な経験を積んで、人材も豊富に育成して先進的なマーケティング展開を一層深化させている。財務上も景気の変動の差を受けることも少なくするべく、進んだITシステムを導入して、予測経営を高機能化してきている。この経営改善でバイク部門も、今や安定収益を上げる重要な部門として確立されつつあるようだ。

にもかかわらず、国内の小売部門、つまり顧客接点たる販売店は、まず現在の国内での販売台数に比べて過剰な販売店数は今なお目立って減らずに、全店が豊かに収益を上げられるほどの適正数にはなっていない。それだけに経営は難しく、店々で経営結果に大きな格差が生じている。赤字スレスレで『よくこれで生計を維持できるなぁ』と、たまに見る販売店の財務諸表に、こちらが驚き感心するくらいだ。生きるためにもがいている販売店が大変に多い状況になっている。

この状況は、顧客の目から見ても一層はっきり顕在化してきた。メーカー各社は賢明に、各社の「顧客接点の基準」を規定し、これを満たす好ましい機能を備えたブランド確立にもつながる販売店の選択を本格的に進めて、あるべきブランド基準、顧客接点としての機能の向上を明確に打ち出し、店舗の再開発を中心に販売店舗・適正店舗の再選択作業を意識的に、顧客重視の視点から進めている。

厳しい言い方で語弊を伴うかもしれないが、結果的に販売店格差を顕在化させ、近代化の進まない販売店を、「販売店としての自己責任判断」によって継続するか、事業を中止するか、顧客の目に見えて分りやすい方法で、販売店自身が判別するように仕向けているのだ。この方法は販売店を切る・切らないの、かつて行われていたやり方に比較すると、よほどスマートといえる。その結果の判断を顧客に公開して、販売店自身によって結果判定を行ってもらい、その結果が顧客にも見えるようにし仕向けたのだ。

販売店からすれば、苦情の申し立てが困難な自己責任問題として、メーカーの方針を突き付けられるように、大きく舵を取った政策へと昇華させたのだ。このプロセスの中身、推進方法にはメーカー各社のマーケティング展開能力の差と、営業的展開力の差が、実際には大きく反映されることになる。基準店舗の設計思想、店舗のアイディアに対する協力度、店舗に展示する商品力の格差、店頭什器の提供力など、メーカー間の差は以前にも増して、総合的なマーケティング展開におけるメーカーの「構想力の差」「関連商品提供力の差」の拡大を見えやすく、分りやすくした。

一方、この状態が進行すると、当然ながらメーカーの販売店に対する拘束力は強化され、立場上の上下の差がうんと拡大した。メーカーの格差の拡大、メーカーと販売力の格差の拡大の双方が同時に一層進む結果となった。バイクの使用者である顧客の各々自分の好みと、生活パターンに相応しい使用目的に合った、自分のオートバイに適したライフスタイルを演出できる十分な用品類を、今では多くのメーカーが市場に提供するようになってきた。顧客にとっては、喜ばしい結果をもたらす「選択肢と格差の拡大の結果」といえ、新しいこの変化は旧態依然のバイク業界の姿勢を、顧客寄りの姿勢に変化させた。

バイク販売業が一種、ファッションショップに変更していこうとしている。これにより日本のバイク販売事業でも、顧客視点からの変革がもたらされ、競争の質を変え、これまで日本のオートバイ販売、オートバイライダーの双方の間で育っていないといわれていた、オートバイ文化の芽生えが感じられるようになってきたことは、大変期待のできる現象である。とはいえまだ多くの場合は、店舗での顧客販売接点の環境がそのように変化し始めた初期段階ともいえ、一層の変化の推進が期待される。一層の顧客視点を重視した変化の興隆を期待している。

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)

1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。