考えるリーダー/Interview インタビュー

2016-04-29

マクロ見据えるHMJ

加藤千明 社長

マクロ見据えるHMJ

利用環境改善「ユーザーの代弁者」として

二輪車市場が長期凋落する一方で、今年も大阪・東京モーターサイクルショーは盛況に終わった。本格的な需要期を迎えたが、厳しい販売が依然続く。こうした中、日本のトップメーカー販社のホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)の加藤社長は、販売環境やこれに対する取り組み、2018年に構築を目指す販売網など中期的な取り組みについて、本紙で初めてその考えを述べた。

――現在の二輪車を取り巻く販売環境を、どのように分析する。

「国内人口、さらには労働者人口が減少している。日本の構造的な問題で、二輪車販売だけが厳しいわけではない。16年度の総需要は40万台を切り、業界始まって以来の厳しさだ。なかでも台数を占める原付一種の落ち込みが厳しく前年比9割レベルで、これが一番の要因だ。以前の原付一種は、機動力や省スペース性、低燃費などの利便性で伸びたが、判別しにくい二段階右折の交差点や法定速度30/h、駐輪規制に対する(首都圏での)駐輪場整備の遅れや、82年から連綿と続く高校生への徹底した三ない運動の実施、交通公共インフラの変化による他のモビリティへの移行などの結果、現在の市場環境となった。

これに対しHMJは3年前より市場の活性化へ向け『バイクが、好きだ。』のメッセージを広く訴求してきた。一方、経産省、自工会が旗を振る二輪車産業政策ロードマップに示される2020年国内販売100万台構想への活動や、10年ぶりに50ccコミューターを中心に、若者に受け入れられやすい表現内容のCMを制作。東京では渋谷や新宿などの繁華街にある大型ビジョンと、地方ではTVでコマーシャルを流し広く訴求してきたが奏功には程遠い。

また、HMJやドリーム店単位での安全やマナーの啓発活動であるモーターサイクリストスクール(HMS)やリターンライダーのためのライディングスクールなどを積極的に開催してきた。

まずは国内二輪市場を元気にし、輝かせなければならない。これら(前述の) 活動を継続的に行い、今後も継続して展開していく。換言すると施策が奏功するまでの継続する根気が大事だ」

各種規制による市場の縮小が最大の課題

――二輪車の利用環境改善への働きかけは。

「ホンダ、さらに業界は今まで規制に対し、世の中に発信することはなかった。二輪車産業は、世界で最も高いシェアを持つ日本の基幹産業の一つだ。そのマザーカントリーである日本の市場を過去30年間、官民で市場を縮小に導いた稀有な産業なのではないか。この反省を踏まえ我々がお客様の代弁者として、その利便性や操る楽しみなどのメリットを発信して行く必要があると考える。

これだけ市場が縮小し各種規制が加わると、モノづくりへの影響が顕著に製品に現れ、お客様が利便性を享受できないことが多くなる。日本のお客様も世界中のお客様と同じような利用環境を受けられなければならないのではないかと強く思う。そのためには社内外の関連各団体、各部門と連携し安全やマナーを前提に各種規制を緩和する時期に来ている」

――2020年までに国内販売100万台の構想について。

「現在のような二輪車の利用環境としては、2020年の100万台達成はハードルが高い。日本の利用環境改善の足かせとなっている実状を把握し、集中と選択の観点で何が問題なのかを絞り込み、今年神戸で開催されるバイクラブフォーラムなどで真摯に意見を交換し、議論することが必要と考える。喫緊の課題はやはり三ない運動の実質撤廃と原付二種免許の取得容易化や4輪普通免許への付帯化議論、中型の400ccをグローバルスタンダード排気量である600ccへの繰り上げなどと考える」

――CRF1000Lアフリカツインの販売が好調だ。また需要期も本番、販売の施策は。

「他社のアドベンチャーモデルとは一線を画し開発コンセプトを明確にしたうえで差別化し、本来のアフリカツインの良さを継承しながら、DCTなどの先進技術を高次元で融合させた。結果として、過去に発売してきた歴代モデルの高い信頼性とも相まって、お陰様で年間の販売計画台数1000台をわずか1週間で達成。お客様にお待ちいただいている状況だ。ドリーム店の店頭では多くのお客様にご来店いただき、試乗後の成約率も非常に高い。

また販売施策では例年、春と夏に実施するキャンペーンを今年も展開。今年は50cc主力3車種の生産が海外から国内の熊本製作所に移管され、タイムリーな供給が実現し拡販につなげている。お客様のメイド・イン・ジャパンとしての高い品質へのこだわりや、信頼も高い。ホンダの二輪車への期待レベルは平均よりもさらに一段高い。開発や生産技術を研鑽するには非常にありがたいことで、我々の営業活動の励みにもなる。特に『ホンダなんだから』という声も頂き、この高い要求レベルに応えることが必要だ」

販売網をコミューターとファンに2分化

――販売網再編への声が聞かれる。

「現在基本取引契約を交わす販売店数は約5600店を超え、このうちドリーム店が112店となる。(16年4月1日現在)また販売網の変革については、今年のビジネスミーティングで方向性を示した。これまでの販売網を大きく2つに分けようと考えてきた。市場やお客様のニーズや利用状況が変化していく中で、我々の販売網も見直し、変革していかねばならない。

実用で使われるコミューター(Com)と、趣味のファン(Fun)のお客様に、それぞれ満足頂けるように、販売店様で、製品やサービス技術力などを誠実かつきめ細やかに提供して頂くことが、お客様への満足度向上につながり、ひいてはホンダブランドに直結ると考える。ブランドはお客様からの信頼に支えられるもので、一朝一夕には築けない。

コミューター(中心の店)は信頼や安心、身近をキーワードに高いサービスで、例えば『あなたの街のホンダ』といった、市中にありお客様が必要な時に信頼ある一定の技術やサービスをタイムリーにお客様に提供できる販売店。趣味を中心とするファン(中心の店)はお客様の要求度、期待レベルが高いため、取り扱う販売店様も高いレベルでの接客や接遇はもとより、電子デバイスなど先進技術を搭載している製品も多いため、非常に高度で精緻なサービス技術力を有することが必要となる。

例えば、100万円以上の商品を『どのような店で買うか(買いたいか)』だ。要は100万円の製品を売る(買う)にふさわしい店舗ファシリティに高いレベルの接客や接遇とバイクライフの提案を行い、お客様にとって『信頼できる販売店』づくりを行うということだ。

各種研修トレーニングをドリーム店を対象に実施しているが、問題は前述したことが、確実に実行できるかどうかだ。お客様が満足するレベルまで向上させ、さらにその上にチャレンジしていかないといけない。今後はホンダのファンモデルを専門に販売、信頼されるサービスを提供する販売網を創っていくことが私の使命だ。

海外に赴任し2年前に日本に戻って、自転車専門店が立派な店を作り、ストアブランドを確立していることに驚かされた。二輪車では変わってこれなかった。10年、20年先を見据えた時に現状の延長線上でいいのかということだ。あらゆる業種で未来の商売に向けて資しないでやってきた販売店は、難しい時代になった。二輪車市場だけでなく、今日本全体も社会保障や若年層への投資も含めそういう状況だということの認識が必要だ。

――市場と二輪業界の関係については。

「マクロでは日本は(人口減少で)量としては計算ができてしまう。あとは質を向上させていくしかない。現実的にその質を我々のビジネスでも変革していかない限り、今後持続的に市場を創造していくことは非常に厳しいものになっていく。各国の経済力は労働力人口掛ける一人当たりのGDPだ。人口減は国力に影響し、人口で国力が左右されるのは周知の事実で難しい理屈ではない。

日本の二輪市場の最大の問題は、今まではお客様が存在し我々が努力して良い製品を造り提供すれば市場は拡大してきたが、市場自体が各種規制と人口動態の変化で縮小している以上、今後の国内二輪市場の活性は望めない。先にもいったが各種規制などについてお客様のためにメーカー、販売会社も一層の努力をするが、行政の協力と理解、支援を頂きたいと思っている」

※なお取材は、「平成28年熊本地震」が起きた16日以前の4月11日に行われたものです。本田技研工業熊本製作所の被災について心よりお見舞いと、いち早い復旧をお祈り申しげます。

紙面掲載日:2016429