考えるリーダー/Interview インタビュー

2017-10-06

ヤマハ発動機/ブランド強化 社内から

長屋明浩 執行役員 デザイン本部長/ブランド委員長

世界の社員「ブランドデー」で思い深める

ヤマハ発動機は今年、創立記念日の7月1日を「ブランドデー」と定めた。ブランドデーでは世界で働くグループ社員が、自社のブランドについて理解や思いを深め、見つめ直す節目の日とした。社内からブランドへの意識を高め製品やサービスを通じ一層「ヤマハらしさ」の発揮を目指す。本紙ではブランドデー制定について、同社の執行役員デザイン本部長でブランド委員会委員長でもある長屋明浩本部長に、活動としての位置づけや狙い、取り組みなどを聞いた。

――今年、ブランドデーを制定。また会社としての目的などとの位置づけは。

「ブランディングについて真剣に取り組み始めました。ブランディングでのメモリアルデーとして一つの起点として行ったものです。

企業目的として早くから掲げている『感動創造企業』、2012年に市場に向けたスローガンとして『RevsyourHeart』を策定。そしてヤマハらしさを表現し、造り上げるための基準に5つのことば『発・悦・信・魅・結』を掲げており、ブランド強化として今回の取り組みがあります。企業の存在意義、どこへ向かって行くのかなど、こういった取り組みをグローバルで統一し、ヤマハらしさを表現していきます」

――全社員に向けてブランドの理解が、なぜ今必要なのか。

「ブランドについて考えていれば終わりなく続けられますが、日々の仕事の中で、それについて指摘がなければ集中して考えないことが普通です。そうしたことから『今日はブランドについて、考えてみよう』と全員に呼びかけました。その意味で、インターナルブランディング(社内におけるブランド価値や目指す方向の理解促進)として取り組んだものです。市場にブランドを伝える前に、社員である自分たちがブランドの理解なしには、お客様とのコミュニケーションを行う時もメッセージが伝わりません。

ブランディングと言うと勘違いされがちで、マーケティングや販促分野だけのこととして捉えられますが、そのようにならぬよう各部門、社員一人ひとりがブランドを心掛けることが重要になります。ブランディングで重要なことはモノづくりと、人づくりもあります。特に人づくりではインターナルブランディングが重要で、事業と社員がすべてを一つの同じ方向に向かなければなりません。

当社では二輪車やボートなど多岐にわたる事業や製品があり、多数の会社が混在しているような会社のため、より一層ヤマハらしさを明確にし、社内全員で同じ方向を見なければなりません。『感動』ということばひとつを取り上げても、個々にイメージもレベルも異なり、向きも違ってしまいます。まずはブランドについて個々に考えてもらうことからスタートです」

――全社員を対象にブランド調査を行なっている。

「毎年、人事部主催で社内の意識調査を行っており、この一環でブランディングに関わる項目があり、これを抽出し分析しています。今年からはよりブランドに特化した内容で行いました。感想として結果で顕著に表れたことは、ブランドが未来に向けて『進化しているのか』に対する結果です。

すでにヤマハは歴史があり製品もあり、社員の経験や育ってきた過程で、それまでのブランドイメージが刷り込まれ意識の中でブランドができ上がっている状況です。ただ、このままの状態で将来ブランドはどうなるのか、ヤマハの未来を考えるうえでしっかりと取り組まなければなりません。ブランドを未来に向け継続させなければならないし、進化・発展していかなければならない。

だから5つのことばとして、最初に価値を発想することとして『発』を置きました。『感動創造企業』として各分野で新しい製品やビジネスなどで、〝とがった〟ものをつくってきたことがヤマハの魅力であり、その姿勢がヤマハでもあります。過去のブランドのまま進化が停止すると、ヤマハらしくないということです。だから『発』が最初であり、最後は『結』として、それをお客様と結び付けなければビジネスにならないということです」

――インターナルブランディングでは生産や人事、財務、営業などの全部門の社員個々も対象か。

「そうです。例えば、人事部門であれば人づくりです。社員採用時にはヤマハらしい考えの人、そうでない人もいるなかで、ブランドに非常に重要な人づくりを行います。結局は人がモノをつくるため一番の根源であり、やらねばならないところです。当然、製品にヤマハらしさが込められなければならないし、例え売れる製品かもしれませんが、ヤマハらしさがなければ、そうした製品は造らないということなのです。営業担当であればヤマハらしい営業の仕方としてもブランディングが必要でしょう。

5つのことばは、世界中のすべての社員が仕事の中で判断する時の基準となります。何かを考え行動する時に、5つのことばに当てはめて確認できますし、世界中のすべての社員がこれを基に判断もできます。

同じ製品で同じ品質・性能、値段も同じであれば、使って楽しめる製品が選ばれるでしょう。それがヤマハだと思う。例えば、XSR900はMT-09がベースで、ネオレトロコンセプトとしてベースモデルと異なる革新的外観としました。コストや手間のかかるアルミ製タンクカバーを採用し、1台ずつクラフトマンシップを感じられる部品にするなど、こうしたことがヤマハらしさであり、工場の社員も造ることを楽しめます。5つのことばの『悦』と言えるでしょう。

お客様を喜ばすには、社員が喜んで仕事ができなければ、お客様にも喜びが伝わらない。『悦』は重要で遊び心も必要です」

――会社経営ではコストや利益も考慮が必要で、バランスが難しいが。

「(コストと利益の関係は)永久について回ることです。例えば、単価を下げる場合もありますが、安全性や現実的な価格でご提供することなど信頼の『信』の要素も必要。また魅力の『魅』も必要です。一方で利益も目標達成のためには必要です」

――ブランドデー当日の行事、社内の反響は。

「実は意外と静かでした。ただ静かでも大きな動きを作ろうと考えました。フィジカルなセレモニーはあえて一切行いませんでした。セレモニーでは点で終わってしまう。理由は世界同時に行うことに意味があると考えたからです。時差はあっても同じブランドデーに、世界中の社員がヤマハブランドのことを一斉に考えるようにしました。

柳社長より当日にメッセージを発信してもらい、同時に小冊子のブランドブックの発行、社内通信網のイントラネットでコンテンツや動画などを一斉に発信。さらにヤマハファンなどのステークホルダーの心を一つにする試みで、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を使い『ハッピーバースデー・ヤマハ』という企画で発信しました。これは話題として大きく盛り上がりました。ご覧になった人から他の人へ情報が流れ、社員や契約ライダーらもメッセージを投稿してくれました。メッセージを見た社員の中には、他の多くの社員のブランドへの思いが初めて分かったという方もいました。実はリアルよりもSNSでの投稿などは心に強烈に残ります。ブランドデーはうまくいったと思います」

――ヤマハにとってブランド(づくり)とは。

「焼印と同じことです。例えば、牛の焼き印を見れば、これはどこそこの牧場の牛、肉の良し悪しがわかる。お客様と会社がイメージを共有できることがブランディングで、あらゆるステークホルダーと期待値が同じになることです。我々が考えていることと、お客様の考えている気持が一致することで、ズレるとブランドではない。そのためには一貫性やイメージの共有が必要です。友達関係や恋人関係にも似ています。選択する場合は理由があり、期待値に合うから選んでもらえる。

ブランディングは今、弊社にとって一番の経営課題として取り組んでいるものです。継続的に事業を営むにはブランディング以上に重要な課題はありません。特にBtoC(企業対顧客の関係)では、非常に大きな意味を持っています」


国内外の社員へ配布した「ブランドブック」

紙面掲載日:201710月6日