本紙ではアンクル・アウルコンサルティング代表の奥井俊史氏が発してきた言語や言行の中から一句を取り上げ、今後随時連載していきます。その一句が二輪車業界に関連するみなさまにとって、必ず仕事の上で役立つのではと考えています。

現在のマーケティングの教科書を見ると「顧客を囲い込め」の大合唱だ。このことばを口にされたことのある読者も多いことだろう。しかし、このことばを念頭に置いてビジネスを展開したことは皆無だ。

実際に人が人を囲い込めるとでも考えているのだろうか。歴史上人物が人を囲い込み拘束したのは奴隷制時代までのことで、現在では犯罪でこそあれ一般的には不可能だ。あなたは奥様を囲い込めますか?部下を囲い込めますか?子供を囲い込めますか?

講演会でたびたび質問するがこれらに対し「できる」と答えた人に出会ったことは無い。例示した奥様や子供達、あるいは部下達、人達は何らかの形で貴方自身が多様な影響力を発揮できる人達である。

一方の顧客はお金を支払って下さる、貴方の影響力など無視していい立場にいる。それなのになぜ「顧客には囲い込め」という姿勢が採れるのか。

この発想でマーケティングに取り組むのか。「人」を「モノ」と捉えたうえでマーケティングを考えているのだろうか。そんな考えで顧客視点が適切に育つのだろうか。結果として内容も掛け声とは裏腹に、いずこも似たりよったりでポイントカードなど実質的に価格値引きに相当する物をオブラートに包んで提供しているだけだ。マイレージプログラムなども同じような類だ。

人と人との関係性をはぐくみ、「絆」で長期にわたる良好な顧客関係を構築しようとするプログラムには、あまりお目にかかれない。「顧客は囲い込めない」という前提に立って、心理的な価値を高め「絆」で顧客との良好な関係性の維持を目指したいものだ。

社長在任期間の足かけ20年で、顧客の維持率65%以上、一代顧客(その間に一度でも商品を買われた顧客が20年間一度も買い替えすらせず乗り続けている比率)は約50%弱。すべて囲い込んだ顧客ではない。「絆」によって結ばれた顧客だ。

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)

1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

This article is a sponsored article by
''.