どんなに強力なブランドであっても、どんなに有効なマーケティングであっても、「安全・安心・信頼」が実践されなくなったり、毀損されたりすると、永きにわたって構築してきた無形資産を一瞬にして損なうリスクを抱えている。この点を、心底から理解することが極めて重要である。

失敗のケースは、昔も今も枚挙に事欠かない。最近ではマクドナルド然り、東洋ゴム然り、東芝然りである。事が発覚しても、社会的な重要性の理解が不十分なのか、初めから社長が会見に出ることは極めて稀である。 

問題発覚後、長い時間が経った時点で、やっと上級の経営管理職が数人顔を揃え、これ見よがしの質素な机を前において深々と頭を下げる。

「このたびは多くの皆様にご心配とご迷惑をおかけし、まことに申し訳なくお詫び申し上げます」と判で押したように「心空(から)のお詫び」をしてすませ、「心(から出る)真摯なお詫び」をしているとはとても思えない。

そう、「何時だって誠心誠意は事故の後」なのだ。いい加減にしてほしい。当事者を除けば迷惑を蒙っている人は極々少数だ。また逆に当事者にとっては「ご迷惑をかけた」で済むような話ではあるまい。同様に多くの人は心配などしていないし、一刻も早く問題点を解決して安全を実現してほしいのだ。しかし、安全の回復はこれまた時間がかかりすぎる。

その点で少し違った印象を受けたのは、今年の6月に起きた外人重役の麻薬持ち込み問題におけるトヨタの対応だ。早い時点で豊田社長自身がまずお詫びした。そして「世の中をお騒がせして申し訳ない」と事件の内容に適した言葉を述べて陳謝した。行動は迅速だった。実情に関して世の中が感じている問題点について簡潔に詫びた。

このように事件や事故に適切・迅速に対応すること。それによって「製品の使い手に対する責任を自覚し、それに対応する誠意を示し、使い手に選ばれるための努力」を実践してこそ「信頼」は築かれ、ブランドは強化される。

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

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