「人は見た目が9割」というのは、作家の竹内一郎氏が、アメリカの心理学者アルバート・マレービアン氏の学説の通説的な一面を重視して書き上げた著作の題名でもある。

基本的な学説は、人の行動が他人に及ぼす影響を詳しく解析したものだが、よくいわれる点は、人は他人の話す内容(言語的な要素)に対して判断を下すことは7%にしか過ぎないが、話す際の語り口調やスピード(聴覚的な要素に対する判断)などが38%、見た目、態度、風体(視覚的要素)などが55%の比率で人を判断しているらしい。

この学説には、読む立場各々にとって都合がよいように俗説的に解釈され、流布されていることも多いという。ただ軽視できない点は、みごとに実感と合致することであり、また自身の行動基準とも合致するということだろう。幼いころ母は「人は足元を見るものだ」と教えた。実際に当時実家は質屋だったそうだが、やはり来店客をまず判断するのは履物だったという。

この法則は、販売店に対する顧客の判断基準にも適合する。店の作りを見て、ショールームの状況を感じ、スタッフと話を交わす。その際の挙動は大きな判断点になる。だから前職の時代に展開した統一させたショップが、他社の販売店と比較して群を抜いて立派であり、しっかりとブランドの広告塔になっていることはブランドビジネスにとって大きな優位性といえる。 

身体的に自信のない私は見劣りする体格をカバーするため、背広は常にオーダーメイドした。メガネや靴にもそれなりの投資をして弱点をカバーした。販売店会議やジャーナリストミーティングの会場も一流と呼ばれるホテルを選んだ。CRM(顧客との長期関係維持)の中核をなすDM(ダイレクトメール)の品質を格段に高級にして、見もしないで捨てられるDMの弱点も克服した。人の見る目を常に意識したからである。それらがブランドのクオリティイメージを高めていたと確信している。

※2016年5月27日付け号「一字千金」再掲載

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

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