マーケットのムードが急変してきている。外出自粛が叫ばれている。本来このような時こそ健全なスポーツレジャーの一環として、オートバイツーリングが脚光を集めても良いのではないかと思うのだが、現実はそうではない。新型コロナウイルス騒動で今年の春のオートバイシーズンは、すっかり曇ってしまうだろう。

販売店では春先の販売増加を見込んで、多めに抱えていたであろう在庫が、資金繰りにも影響を及ぼし始める。この社会情勢の悪化は長引く可能性が大きい。結果的に借入金が増えたままで資金繰りが悪化し、低金利の時代とはいえ金利負担が重くのしかかってくるケースも増える。

「在庫は諸悪の根源である」──かつて私は言い続けてきた。新型コロナウイルスの影響を避けるためにも、今年は改めて在庫管理に注意を払うべきだ。

資金繰りは悪化し、金利負担は増え、在庫スペースの必要性が増し、長期間の在庫によって商品の「年式落ち」など、ビジネス的な陳腐化が進む。毎年明確なモデルイヤーの切り替えがある海外メーカーの輸入車などは、下手をするとこのリスクが発生する。商品の経済的な陳腐化だ。

モデル末期に発生しやすいこの問題を避けるため、あるいは陳腐化する商品の販売消化のため、値引き販売が発生する。値引き販売は、時間をかけて築き上げてきたマーケティング資産を、短期間で殺す。ブランドを棄損し、販売店の経営を悪化させる。

このような事態の発生を防止するために、年間を通じてのマーケティングカレンダーを、定式化させて早め早めの対応策を打てるようにしていた。1~2月には「新春あったかフェア」を開催し、3~5月は「WELCOME SPRING FAIR」、6~8月が「PASSPORT TO FREEDOMキャンペーン」、9~11月は「XX年モデル店頭新車発表展示会」、12月はボーナスを当て込んで「HARLEY THE PARTY」というプログラムを定例化していた。

単にプログラムを導入するのみならず、それらの店頭での展開・実践を確実にメーカーとしてフォローした。

名称は定式化させていたが、勿論、毎年各プログラムの新鮮さを保つために、また状況の変化に対応できるように、2つ以上必ず新しい内容を織り込んだ。また、モデル末期(日本では6~8月)には、先のプログラム以外に状況を見て、早めの在庫消化を狙った内容を追加して展開することもあった。

こうしたマーケティング活動の効果を上げるためにも、同時にメーカーおよび傘下の販売店における在庫管理を徹底した。売れる車両が無ければ効果が上がらないが、必要以上に在庫を残すことは、絶対に避けたい。在庫管理が不適切な状態であると、マーケティング効果が大いに損なわれるからだ。

私が在籍していた米国メーカー法人の当時、早い時点で契約正規販売店、公認販売協力店以外の販売店では、正規輸入の製品は扱えない状況を構築、徹底していた。正規販売店網によるユーザーへの「直販100%」体制は、2000年には出来上がっていた。この直販100%体制は、マーケティング実践の効果を高めるためにも、また在庫管理の徹底にも、施策実施の基礎となり大いに貢献した。流通在庫の詳細が販売店相互間でも「見える化」されていた。

メーカーと各販売店間では在庫一台一台について、年式・モデル型式・カラー・オプションのレベルで、在庫情報公開、共有されていた。メーカーからの配車後45日以上を経過した在庫については、すべての在庫の詳細を相互間で公開し共有した。その公開在庫に対しては、販売店同士で直接、必要に応じてメーカー経由で他店の在庫の買い取り、あるいは在庫の交換ができるように、ファミリーで「在庫管理プログラム」を共有した。

このプログラムを利用して、各店が在庫の移動を他の正規販売店と行った場合には、店舗間の国内輸送費の半額をメーカーが支援した。一般的に大型車両1台を移送する場合4~7万円の輸送費が発生していたので、この制度は販売店にとっては魅力的であったようだ。ここまでの支援をしてでも流通在庫の適切化と長期在庫の発生防止に努めていた。

残念ながらそうしなければならないほど販売店における在庫意識は希薄で、在庫管理は貧弱だった。こうまでしても全国トータルで1万5000台のわずかな販売台数で、車種の数も35前後という簡単さであっても、販売店の在庫期間が、メーカーからの配車後1年を超える、超長期在庫の発生がままあった。

そうした時は状況を見てメーカーから販売店に対して、同意の上で当該車両の処分を求めることもあった。中古車として販売処分するか、試乗車として下すか、販売店使用に回すかなど、いずれも登録したうえで処分することが原則だ。

もちろんメーカーとして、自身における在庫管理も徹底した。在庫の状況の改善のために、販売店に対して仕切り価格を安く値引きして、その在庫の引き取りを依頼する強制配車・押し付けのような本末転倒となることは決して行わず、しかもモデル末期や年末にはメーカーとしての在庫が100台を下回れるように、常に3ヵ月先行した在庫管理と、販売予測を厳重に行った。

そのためにも販売店が発行する見積書や契約書などは、コンピューターで行い即時の状況変化を把握していた。健全な配車・販売・在庫の管理である。

今年の新型コロナウイルスが、健全な在庫管理に影響を及ぼすことが無いことを祈っている。

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

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