「価格で取った客は、価格で奪われる」──。一度値下げに成功して顧客を獲得できても、次回は反対に競合店のさらなる大幅な値引きで、顧客を奪い返されてしまう。よく見られるビジネスのあり方である。

特に、比較的近隣の店同士が価格戦略を武器として競争相手に勝とうとすると、相手が倒産するまでの十分な競争資金を持たなければ、この戦争には勝ち目がない。

A店が値引きした価格を提示して広告を出すと、競合のB店は、売られたケンカに勝つためには、それよりも大幅な値引き価格を提示せざるを得ない。顧客も賢いので、それを知るとA店から精一杯値切った見積書を書かせる。そして、それを手にしてB店に直行して「この価格より安ければ、お宅で即金で買うよ」と持ちかける。時としてはもう一店くらいがその対象の中に巻き込まれる。

それに対して、購入後の各種のアフターセールスサービスを説明して、長い所有期間(最近では顧客が引き続き7年~9年は乗ることがざらだ)の間に顧客に提供するトータルなサービス提供内容を明確にして、価格で迫る顧客を説得することに成功することもあるが、やはり目の前の価格差で決着することの方が多い。

金銭的差異を埋められる、または超えるプログラムで自信を持って顧客に提示できる店も少ないといえる。

オートバイなどの乗り物は、一般の自動車に比べて顧客だけで楽しむことには限界がある。店の人間と、あるいはその店の顧客の仲間がクラブ組織を構成して仲間で楽しく遊ぶ。そのためにお店でも色々策を練り、人をつぎ込み、経費も出して楽しいプログラムに仕上げている。実際に私が行ってきたイベントでは、多くの場合、お客様から頂く料金の数倍の予算を用意して、ともかく「記憶に残る」楽しいイベントを組み立てていた。

そうでなければ、本当にバイクに乗って楽しむという価値からは離れていく。この精神がなければ、その分お客様に還元する金額も少なくなり、楽しむためのオートバイ、楽しむためのプログラムを貧弱にせざるを得なくなる。“無い袖は振れない”状態になっていってしまう。

特に、400CCクラス以上のスポーツタイプのバイクではそうだ。顧客と販売店がこの点をお互いにメリットの出る商売に育てることに、負担すべきものを理解しあうことが結局いちばん本来のバイクの買い方、乗り方、楽しみ方なのではないか。そこに本来の「絆」が生まれる。

※2017年8月11・18日付け号「一字千金」掲載

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

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