大阪府(吉村洋文知事)と大阪大学(西尾章治郎総長)、日本自動車工業会(豊田章男会長)二輪車特別委員会(二特)の3者は8月19日、電動二輪車(二輪EV)普及のための実証実験プロジェクト「e(ええ)やん OSAKA」を、同大キャンパスがある府北部の北摂(吹田市、豊中市、箕面市)エリアで9月より開始すると発表した。二輪EVを阪大生や教職員に貸与し進められる同プロジェクトでは、バッテリー交換拠点を大学構内や周辺市中のコンビニエンスストア店舗に設ける。

実証実験を通じて少残量のバッテリーを満充電バッテリーに交換可能なシステムの確立化に向けた、二輪EVによる新たなモビリティシステムの提案が目指される。今後約1年間実施される実証実験において、二輪EVと交換バッテリーの利便性や有用性、課題などを抽出し検証していく。

コンビニや大学がバッテリー交換拠点に

「eやん OSAKA」プロジェクトは、産学官が連携し、環境性能に優れた二輪EVの普及および認知度向上、その活用による持続可能な都市交通戦略の検討を目的とする実証実験施策で、大阪府と自工会をつなぐ経済産業省の協力も得て実現したという。

二輪EVの普及には、航続距離の延長や充電時間の短縮などの課題があり、ユーザーにとっての利便性の面からも交換式バッテリーの標準化と交換システムの普及が有力な解決手段の一つと考えられている。

これらの課題を解消する対策検討を行う実証実験として、大阪大学の学生や教職員に二輪EVを有料で貸与し、大学キャンパスやその周辺地域の提携コンビニエンスストア(ローソン)でバッテリー交換を行うことにより、二輪EVが移動の社会インフラとして定着するための課題抽出を約1年間実施するもの。今回の実証結果を踏まえ、普及に向けて府内での実証サービス拡大も検討していく予定。

大阪府では今回のプロジェクトを通じて、大阪に多数の企業が立地する蓄電池関連分野の産業振興や、大阪・関西万博の目指すSDGs(持続可能な開発目標)達成に資する社会課題解決ビジネスの創出につなげていく方針としている。

新常態で普及に拍車も 電動二輪車の有用性

また、大阪大学では地域活性化と府民生活の向上、社会課題の解決に向けて大阪府包括連携協定に基づき今回の取り組みを推進。同プロジェクトで実験を担当する同大学院工学研究科の研究グループは今回の二輪EV施策について、「低炭素型車両のメリットに加え、コロナ禍で3密回避可能な移動手段であることから、ニューノーマル(新常態)時代の低感染リスクの移動手段として期待が一層寄せられている」と評価。

将来的にはメーカー間で共通規格化されたバッテリーを用い、街中に多数のバッテリー交換ステーションが設けられれば、利用者にとって低ストレスとなる有効性もメリットに挙げた。

さらに街中のバッテリー交換ステーションに設置されたバッテリーは、災害時の電力供給源として利活用の可能性が広がるほか、機動性の高い二輪EVが災害時の移動手段としての重要な役割を担うこともできると解説。バッテリー交換式二輪EVの有用性は、社会の新たな公共財としても普及を進める意義が非常に大きいと強調している。

これらの特長やメリットを背景に、阪大研究グループでは自工会二特や大阪府と共同で今回の実証実験を実施し、バッテリー交換式二輪EVの社会普及促進策とニューノーマル・モビリティシステムの提案を行うものとした

電動二輪車が移動ツールの選択肢に

一方、自工会は、街中でのバッテリー交換の利便性の検証と二輪EV普及の阻害要因の洗い出し、また認知度向上により二輪EVが多様な移動ニーズの一つとして『選ばれるモビリティ』となることを目指していくと説明。今回の実証実験では、共通利用を目的とした交換式バッテリーとそのバッテリー交換システムの標準化の検討を進めるため、昨年4月に国内二輪4社(本田技研工業、川崎重工業、スズキ、ヤマハ発動機)で創設した「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」と連携することにより、交換式バッテリーの利便性や有用性を具体的に検証していく。

このコンソーシアムでは、より環境にやさしく利便性の高いモビリティとしての二輪EV普及の課題となる、航続距離の延長や充電時間の短縮、車両およびインフラコストの対応として交換式バッテリーの標準化(共通仕様の実現)について検討。これらの活動を通じ、二輪業界全体で多様な議論を行うことにより、二輪EVの普及による、低炭素社会の実現に貢献することを目指している。

画像: ベンリィ イーワンを実験に使用

ベンリィ イーワンを実験に使用

画像: 交換バッテリーは計50個以上を備蓄

交換バッテリーは計50個以上を備蓄

実証実験要項

使用車両は、ホンダBENLY e:Ⅰ(ベンリティ イー ワン/原付一種50cc相当)で20台用意。同機種は全長1820mm×全幅710mm×全高1025mm、重量125kg、充電走行距離87km。

バッテリー交換拠点は吹田と豊中キャンパスに各1カ所、また、吹田・豊中・箕面各市内にあるローソン計10店舗に設けられ、各構内に6個、コンビニには各店舗4個配備。利用者は無料で交換できる。

実証期間は第1期が9~12月(説明会・アンケート期間含む)、このうち3カ月間の車両レンタル(車両利用)となる。レンタル期間中は各キャンパスへの移動のほか、時間や休日利用などの制限を設けず、ユーザー各人のライフスタイルに合わせて利用できる。

実証実験は全体で約1年計画され、今後約3~4カ月ごとに募集する。募集は各期20名。第2期(1~3月)以降は新規応募者が優先されるが、継続参加も予定。参加要件は大阪大学の学生(院生含む)と教職員で原付運転免許保有者、自宅等にレンタル車両の駐輪場が確保可能なことなど。参加費用は月額1000円(1カ月、2カ月等の利用は不可)とし、車両・バッテリー・ヘルメット・グローブのレンタル費用、保険費は費用に含まれており、入構負担金も免除となる。

実証実験エリアは、吹田キャンパスから約20km圏を想定。ステーションやコンビニの交換バッテリーの準備は、3キャンパス間の移動が可能となる配置が予定されている。

8月19日に行われた「eやん OSAKA」プロジェクトの発表会見で、自工会二特・日髙祥博委員長(ヤマハ発動機社長)は「今般の実証実験を通じて、電動二輪車の利便性の検証、普及阻害要因の洗い出し、認知度向上に取り組むと同時に、ニューノーマル時代の新たなモビリティシステムを創出していきたい」と、2025年の関西・大阪万博で大勢の人が電動二輪車に乗っている姿を世界に向け発信したいと二輪EV普及への意気込みも語られた。

なお、当日の会見には、前出の日髙氏に加え、自工会から二輪車特別委員会副委員長の本田技研工業・安部典明常務執行役員二輪事業本部長、同副委員長の川崎重工業・吉武秀人理事/技術本部長、二輪車特別委員会委員代理のスズキ二輪事業本部二輪設計部・福留武志エンジン実験グループ長、和迩健二自工会常務理事、大阪府商工労働部成長産業振興室産業創造課の岡野春樹課長、大阪大学からは同大大学院・馬場口 登工学研究科長、同大大学院工学研究科地球総合工学専攻社会基盤工学コース教授の土井健司工学博士、同大サイバーメディアセンターセンター長で教授の下條真司工学博士らが出席した。

今回大阪での実証実験は限定されたエリアで実施されるが、コロナ禍でその価値が高まりつつあるパーソナルモビリティにあって、バッテリー交換式の二輪EVという新たなプレーヤーを際出たせることで、社会へ新たな気づきを与えるとともに、二輪車のプレゼンス向上に繋がるだろう。今回の検証プロジェクトを契機として、今後の二輪EVの取り組みに注目と期待が寄せられる。

画像: 会見出席者。前列左から自工会二特・安部氏、大阪府岡野氏、自工会二特・日髙委員長、大阪大学大学院・馬場口工学研究科長、同・土井教授。後列左から自工会二特・福留氏、同二特・吉武氏、同・和迩氏、大阪大学・下條教授

会見出席者。前列左から自工会二特・安部氏、大阪府岡野氏、自工会二特・日髙委員長、大阪大学大学院・馬場口工学研究科長、同・土井教授。後列左から自工会二特・福留氏、同二特・吉武氏、同・和迩氏、大阪大学・下條教授

画像: 実証実験要項

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