今年1月に国内の郵便事業を担う日本郵便へ200台の業務用電動二輪車BENLY e:(ベンリー イー)を納車した本田技研工業(ホンダ)。新型コロナウイルスの影響もある中、電動二輪車で今後、どのような戦略を進めていくのか。販売部門の責任者へ話を聞いた。
──ベンリィ イーシリーズを日本郵便へ納車。その後、販路は広がったのか。
「新型コロナの影響はもとよりEVへの社会的な関心や理解浸透が進まず、販路拡大が順調に進んでいるとはいえない。日本郵便様への納車式後、大手新聞各社様からも導入の意向があった。新聞販売店様への拙速な導入は、充電インフラや資金面などでハードルはまだ高いとの意見もあるが、新聞社様側としては環境意識の高まりもあって、導入したいという意見もある。実際、早朝の新聞配達で使われる二輪車の走行音への苦情がいまだに一部であるのは事実だが、EVの静粛性がこれらの問題を解決することになる。
EVは集配業務や営業活動などで使用している事例が多いことから、法人単位でのビジネスを拡充し、社会へその有用性をアピールしていきたい。業務で使用する法人にとっても、環境性能や静粛性、機動力などの有用性を一般の人たちに理解して頂けるので、お互いのメリットが共有できると考えている。何より法人での利用は従来のエンジン車の知見もあり、ある程度想定できる。
日本郵便様へ納車した車両は、走行履歴や車両情報などを確認できるシステムを搭載し、管理されている。毎日、業務で一定の距離を走行することで使用状況のデータも取得できる。ホンダとしてもEVの拡充、普及のためには利点や特性を積極的にアピールし、理解してもらえる方々を増やしていきたいという思いはある」
──ホンダの二輪販売店にとってもEVは魅力のある商品なのか。
「EVは販売店様にとって〝商品力があり収益性の高いモデルか〟といえば今は大手を振って肯定はできない。EVの大きな課題であるコスト、特にバッテリーのコストやリサイクル、利便性の高い充電インフラにどのように対応し、社会に順応させていくのかをトライ&エラーを繰り返しながら課題をひとつずつ解決していく。ホンダは一気呵成にEVで利益を追求する気持ちはなく、今は将来へ投資する気概で努力していく。EVを使うオーナーがメリットを感じ、販売店様で商品を扱いサービス活動を行う、という流れの中で、皆さんに喜んで頂ければ良いという思いがある。
一方で、PCXエレクトリックや同ハイブリッドなど、今までにないメカニズムを扱うモデルが増えてきたこともあり、車両点検時には通電しない工具やグローブなどの使用を義務づけている。前述のPCXやベンリィ イーもそうだが標準で48V×2=96Vもあり、電圧が非常に高く、専門的な知識が必要となる。取り扱いへの十分な注意喚起と同時に、二輪車整備振興会で開催する、低圧電気講習の受講をお願いしており、その受講費用の補助も行っている。
我々はEVに関しても常に販売店様をバックアップしながら情報を共有している」
──他方で海外製の電動二輪車を扱う会社が増えてきた。
「ホンダは品質や性能を担保している。世界中で発売し、十分に通用するEV二輪車のベンチマークとなるような競争力のある商品を提供していく。法人ベースで業務用のEVを投入したのも、一番タフに使用されるからだ。そうした過酷なビジネス用途の環境から信頼性や性能を高めていくことが現時点では最大の課題だと考えている」
──EVの今後についてはどうか。
電動化でエンジン車の『FUN』なところをどのように打ち出していくのか。
「待ったなしで直面している環境問題に対し、四輪のモータースポーツでも電動化が始まっているなか、化石燃料をいつまで使うことが許されるのか、という切実な問題も出てくる。電動化は巨額な投資にもなるが、手を付けておかないと環境規制がより厳しくなる2025年には間に合わなくなる。今はそれらの課題に真摯に取り組んでいる最中だ。
あと、『FUN』なところで言えば、EVは起動トルクが太くかつ高回転域までスムーズな伸び感があるので、エンジン車とは全く違う、乗る楽しさや操る楽しさ、利便性につながるのではと考えている。ホンダではモトクロスモデルのEV『CR Electric』もある。ほかにも電動化を想定したモデルにも挑戦している。
今後は前回の東京モーターショーで参考出品した電動三輪車・ジャイロのEVをリリースする予定。従来のジャイロシリーズは荷台に重量物を積んでも丈夫で堅牢な車両として多くの人に愛用されてきた。これまでに培った豊富な知見もあることからEVでも同様にタフに使ってほしい。過酷なビジネスでも十分に対応することを前提で開発しているので、是非その真価を確認してほしい」
紙面掲載日:2020年8月28日