ヤマハは2021年12月16日に「YZF-R7 ABS」を発表。先に発売された「MT-07」のエンジンとフレームを共通としながらも”扱いきれて楽しめるスーパースポーツ”を目標に開発。スポーツモデルの性能とスポーティなハンドリングを両立したという。発表前にはショートサーキットでの試乗会を開催。試乗したジャーナリストの太田安治氏は初心者からベテランライダーまでFUNライドを十分堪能できるモデルだと太鼓判をおした。
文:編集部/太田安治 写真:南孝幸

MT-07のカウルモデルにあらず

YZF-Rは「Fun Master of SuperSport」をコンセプトに開発。公道でハイパフォーマンスを楽しむ「R」シリーズのコンセプトを受け継ぐ、新世代のスーパースポーツ(SS)モデルとして発売された。ヤマハのSSモデルであるYZF-R1や同R6が“レーストラックを極めるモデル”を標榜しているのに対し、R3やR25は“毎日乗れるモデル”と位置づけしている。R7はそれらに対し“楽しさを極めるモデル”であり、なおかつ格好良くてちょうど良いSSを目指したという。

デザインもYZF-Rシリーズと共通する、ひと目でSSと分かるアグレッシブなデザインを採用。“エゴ”を刺激する各パーツとして、LEDの灯火器類や倒立式のフロントフォークに調整式のリアサスペンション、さらに二輪量産車では世界初となる、ブレンボ製のラジアルマスターシリンダーを採用する。

画像: Rシリーズに共通するデザイン

Rシリーズに共通するデザイン

画像: カウルも空力性能を追求

カウルも空力性能を追求

装着するタイヤもMT-09で実績のあるブリヂストン社製の「バトラックスハイパースポーツS22」を専用チューニングで採用。SSに相応しいアイテムを豊富に採用したことで若手からベテランライダーまで、走りを楽しめる性能を持たせたという。

車両価格にもこだわったとしており、100万円を切る販売価格となっている。その方策としてMT-07と同一仕様のエンジンを採用し、基本骨格のフレームも共通としているが、単純な『MT-07のカウルモデル』にはしていないという。

R7の開発まとめ役である、PF車両ユニットPF車両開発統括部SV開発部P設計グループ・プロジェクトリーダー主査の今村充利氏は「先進の電子制御なども装備していないが、丁寧な作り込みと創意工夫で最新のSSモデルを完成させることができた」と強調する。

外装はRシリーズのスタイリングアイコンを継承しつつ、ヘッドランプをM字ダクトの中央に配置したことで、機能性とデザインを両立させたR7オリジナルのスタイリングに。フレームはアルミ製のセンターブレースをリジッドマウントするなど、各部の締め付け剛性を最適化してピボットまわりのねじり剛性を向上。全体の剛性バランスを最適化したという。

エンジンはMT-07とは2次レシオを変更したことで、高揚感ある走りとスポーティな乗り味を実現。また、MT-07シリーズで初となる、軽やかなクラッチ操作と安定感のある減速をもたらしてくれる、アシスト&スリッパークラッチを採用。スムーズで素早いシフトアップをサポートする、クイックシフターもオプションで用意する。

画像: 新作のフルLCDメーター

新作のフルLCDメーター

画像: クロスプレーン構造のCP2エンジン

クロスプレーン構造のCP2エンジン

絶妙な車体設計

フロントサスペンションには、新設計のφ41mmインナーチューブの倒立式を採用。キャスター角をMT-07よりも小さくして減衰力とバネ定数も最適化。車体挙動を分かりやすくしたことで、ワインディングやショートサーキットでの操縦性などをメインにセッティングしたという。

リアサスもR7用に専用開発。リンクをMT-07よりも4mm短縮、バネレートも変更し、スペースの効率化を図ったことで、マスの集中化とコンパクト化に貢献。ライディングポジションではハンドルをセパレート化。ステップもバックステップ化したことで、スポーティで伏せやすく制動時のホールド性に優れるライディングポジションを実現。シート高は835mmに設定し、シート幅を細く座面後方の面積を広く取ったことでポジションの自由度を高めている。

画像: バイファンクションLEDヘッドランプを新採用

バイファンクションLEDヘッドランプを新採用

画像: スクリーン内にETCアンテナの設置場所を設定

スクリーン内にETCアンテナの設置場所を設定

▽発売日=22年2月14日▽税込価格=99万9900円▽年間販売計画=1100台

「手が届く価格帯のモデルを提供したかった」
プロジェクトリーダー主査・今村充利氏

画像: 今村充利氏

今村充利氏

「R7は北米市場がメインですが、そこで若い人たちを購入者に設定した時に9000㌦から1万㌦というローン審査の壁があるというのを聞いていました。また、660ccクラスのSSもユーザーがたやすく手が届く価格帯ではなくなってきているようです。その一方で、2気筒を搭載したモデルが市場で盛り上がっているという認識もあり、そこを明確に狙いました。格好良くて、扱いやすくて、手が届く価格帯のモデルが出来たと思います。

青春の1ページになるようなバイクにして欲しいし、リターンライダーが戻るバイクにもしたかった。弊社は毎年、新入社員が入ってきますが、そうした人たちに選ばれる、一番使い勝手の良いバイクにしたかったという想いもあります」

「往年のTZRにも通じる純スポーツ 」
【試乗の感想】 太田安治氏(MCジャーナリスト)

画像: 太田安治氏

太田安治氏

エンジン/車体の基本コンポーネンツを共有しつつ、外装と足回りの変更で全く異なるキャラクターのバイクにまとめ上げるのがヤマハの共通プラットフォーム戦略。ミドルクラスではMT-07から始まってXSR700、テネレ700と続いてきたが、新たにYZF-R7が加わった。

生粋のSSモデルと同様のシャープなルックスだけに手強い印象を受けるが、走り出すとあっけないほど扱いやすい。元々、MT-07のエンジンは低回転から粘り、公道で常用する中回転域で抜群に扱いやすいが、この力強さはR7も同じ。スロットル開け始めのレスポンスも過敏さを抑えて扱いやすく車重の軽さや足着き性の良さと併せて、発進停止を繰り返す市街地でもストレスなく交通の流れに乗れる特性になっている。

SSモデルはレース参戦も要件に入っているので、高剛性の車体と硬めの前後サスペンションが与えられていて、乗り心地はハード。対してR7は「サーキットでのスポーツ走行も楽しむ」というレベルに合わせた設定で、サーキットでの試乗後、公道でも試したが乗り心地は意外なほど良好だ。しかも加減速での車体姿勢変化、スロットルオン/オフでの荷重移動が明確にライダーへ伝わってくるので、峠道も楽しくリズミカルに駆け抜けられる。

R1やR6と決定的に異なるのは軽くて素直なハンドリングと、トップエンド近辺でも扱いやすいエンジンパワーという組み合わせ。エントリーライダーも不安なく乗れるはずだし、かつてのレーサーレプリカ時代を経験している世代なら、「ハンドリングのヤマハ」というフレーズと共にライダー優位で攻める楽しさが蘇ってくるだろう。僕が試乗中に何度も思い出したのは80年~90年代に大人気を博したTZR250の乗り味だった。

ただ、人車一体のスポーツ性と引き換えにライディングポジションはかなり深めの前傾姿勢。スポーツ走行では人車一体感が出て微妙なコントロールがしやすいが、公道での長時間ライディングでは上体に掛かる負担が大きい。R3やR25のようにスポーツモデルらしいルックスと快適なポジションがバランスしていれば誰にもお勧めの優等生なのだが、あえてそうしなかった割り切りにヤマハらしいこだわりを感じる。「誰でもどこでも乗りやすい」を追求すれば「どれに乗っても似たようなもの」になりかねないのだから。

60th記念車も用意

画像: WGP60周年記念車

WGP60周年記念車

YZF-R7の発表と同時にロードレース世界選手権参戦60周年記念カラーを施した「YZF-R7 ABS WGP 60th アニバーサリー」も台数限定で発表。1980年のYZR500(OW48)をモチーフにしたスタイリングで、白を基調にストロボカラーをデザイン。タンク上部やリアシートカウルには60thを記念したエンブレムやデカールが施される。前後ホイールもゴールドカラーとし、アンダーカバーはバフクリア仕上げのアルミ製となる。

▽発売日=22年3月14日▽税込価格=105万4900円▽年間販売計画=400台限定

※本紙2月4日付2面に掲載した写真に間違いがありました。「YZF-R7 ABS WGP 60th アニバーサリー」は正しくは上記写真になります。お詫びして訂正いたします。

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