今年はモーターサイクルショーが久々に大阪、東京、名古屋など各地で開催され、バイクへの関心がさらに高まっています。とりわけ「レトロ系スタイル」のバイクへの注目度が高いですね。ティアドロップ型タンクに象徴される昔ながらのスタイル。かつて販売されていた小型レジャーバイクの復刻も含めて何故今、レトロなのでしょうか。

最新技術と最新スタイルの超高性能なニューモデルも魅力的ですが、60年代から70年代を彷彿とさせる古風なスタイルのバイクも、一方で大きな存在感をアピールしています。

レトロ系モデルが小型クラスを中心に充実しながら、中古車市場では当時の機種が異常な人気です。そうなると速さよりもレトロ系が持つ基本形が、世界の主流になりつつあるとさえ思えてきます。

考えられる理由はいろいろあります。そもそも生活と密着するクルマと違い、バイクは大きくスタイルが変わる必要性が少ないのかもしれません。さらに、超高性能リッタークラスのスポーツ車が持つ「異様な速さ」への関心が少しトーンダウンしている気がします。

フルバンク中のフルブレーキでも転ばないコーナリングABS、リアタイヤのスライド量や前輪リフト量、パワー特性や乗り心地も変えられるなど、ハイテク技術の介入度が大きく強くなるほど、ライダーの創意工夫が入る余地がなくなっていきます。

クルマも電動化が進み、内燃機関の匂いがますます希薄になっていますが、バイクにおいてレトロ系が支持されているのは、ハイテク化の反動でしょうか。

レトロの根底にあるのは「効率や競争」よりも「自分だけの時間・空間の充実」。流行りの一人キャンプにバイクが選ばれている理由もそこにあります。

また、カスタム化のベースマシンとしてレトロ系は全体をまとめやすいのです。燃料タンク、サイドカバー、前後フェンダーなど部品がそれぞれ独立した作りになっていて、自分で好みのカラーやグラフィックに変えられますし、構造がシンプルなのでプラモデルのように組み立てられます。

手を入れる余裕がそこかしこにある、というだけで満足感が高まるのです。極端に言えば、完全にバラバラになったパーツを手作業でじっくり組み立てるという、自分だけのストーリーが生まれるのです。「モノ」だけでなく、ひと手間掛ける「コト」を今、ライダーは求めているのではないでしょうか。

バイクショップは台数を売ることも大事ですが、その中でわずかでもいいので、お客様とバイクショップが一緒になって世界のどこにもないバイクを創り上げていく。これも原点に立ち返る「基本形」と言えるかもしれません。

簡単なことではないでしょうが、熱い思いと時間をお客様と共有することは、ちょっと他では体験できない、この上なく素晴らしいことだと思います。バイクはどこで買っても同じ!と言わせないひとつのあり方です。

プロフィール

柏秀樹

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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