出入りしているバイクショップに、女性スタッフが転勤してきました。父親から譲り受けたレトロ調の2気筒バイクに乗っているらしい。彼女の父親は新しいバイクに乗り換えたが、どうもこの先のバイクライフが不安になっているという。

その不安とは体力不足。大きく重たいバイクの取り回しが苦手。しかもツーリングの翌日は仕事に影響するらしい。

そこで私が「お父さんには、ちゃんと乗り続けて欲しいですよね!」と切り返したら「そうなんです。私と兄と父の3人で一緒に走るのがすごく楽しいみたいだから、なんとか継続できるといいなあと思っているんです」。それは家族の問題でもあるけど、同時にバイクショップの重要課題だと思います。今乗っている人を、いかにバイクから降ろさないか。

バイクを降りてしまう理由は、事故による怪我や加齢による体力不足が圧倒的に多い。

「お父さんはベテランだと思うけど、普段からどんな乗り方をしているのかな?たとえ速く走れても無理無駄ムラのある走りは、知らない間に体力を消耗するから、ゆっくり走ってもリスクは減らないかもね」と、バイクの乗り方について言及したら「父は40年ぐらい乗っているんですけど、自己流かもしれないから基本的な乗り方をチェックしたほうがいいですよね」と前向きな返答。

「バイクの練習って、一生懸命頑張るってイメージだけど、実は逆だよ。息を止めて歯を食いしばって練習すると、それが基準になってしまう。

そもそもバイクライディングは、自分が力を入れているつもりがなくても、相応の筋力を使っているものなんだ。それをどうやったら低減できるか。たとえばAさんとBさんが一緒に250ccのバイクでツーリングをして、Aさんの体力100のうち残量は10%だけどBさんの残量が50%だとしたら圧倒的にBさんが上手いんだよ。AさんがBさんより速く走れても、体力が消耗して集中力低下で事故や転倒につながるケースが多いから。

速く走るためのテクニック習得ではなく、5年でも10年でも15年後でも、ニコニコしながら乗り続けられるノウハウを親子で一緒に考えたり、習ってみるといいよね」と私。

一方でこんな事例もあります。私のレッスンに熱心に参加し続けているSさん。小さな息子さんも電動バイクで一緒に習っていますが、けっしてそのお父さんは「速く走れ!」「頑張れ!」と言わない。ニコニコしているだけです。

スパルタ方式で息子さんが速くなったとして、必ずしもずっと一緒に走ってくれるとは限らない。ケガで辞めるか、行き詰まる例がとても多い。それよりもはるかに大切なこと。それは親子で仲良くバイクに乗り続けることです。

息子や娘、あるいは奥様と大好きなバイクで一緒に走ること。それは家族にとって、まさにかけがえのないこと。私はそんな家族を精一杯応援したくなります。

モノやコトを売る商売であっても、原点は「応援」ではないかと思います。

プロフィール

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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