その中で家族と一緒に、というシーンが増えていることに触れましたが、とりわけ意味深いのがロングスパンの意識です。
「人生100年時代」と近年では言われています。仕事と趣味のバランスをとるだけでなく、趣味といえども、きちんとした取り組み方が一番大事である、というように流れが変わっているように思います。
そうです。いつまでも安全に楽しく乗り続けるというテーマがあるとしたら、そのいつまでもというのは100歳を上限にして、現実的に乗れるとしたら70~75歳ぐらいまでがいいところ、というのが常識でした。
しかし医療技術が大幅に進化したこともあり、健康寿命がどんどん伸びている今の時代では、実際に75歳以上のライダーがますます増える可能性があるのです。ということは、自動的に家族や親しい友人と長く過ごす時間が増えるということ。
ですから、趣味としてのバイクライフは乗る人それぞれの思考やスキルがより深く求められていく、というわけです。
根性と度胸でバイクの乗り方を探求した、昭和の時代を引きずってしまうよりも、様々なデータを元に科学的なアプローチで、安全・安心そして楽しさを掘り下げていく時代になったということでしょう。
あれはダメ!これはダメ!よりも、こんな根拠があるからAとBのプランならAを選択する、というように、サイエンスとしての取り組みが長寿ライダーになっていくためのマストではないかと思います。
共有したいロングスパン意識
具体的には歯を食いしばって練習するよりも、歯を食いしばらないで練習すること。運営しているバイクレッスンでは、できるだけゆったりとした自然の中で私なりにその根拠を示しながら、とりわけ初心者にこの重要性を伝えています。
初心者の段階で根性・度胸に頼る練習をすると、ベテランになっても自動的に根性と度胸が先になってしまう。すると早く疲れてしまう。早く疲れるとバイクライフが疎ましくなりやすい。反対に疲れにくい走り方を基礎練習で習得すれば、練習量が増やせるから上達に加速度がつきます。
つまり、人生100年時代に75歳以上のライダーがピンピン・イキイキであるためには、最初の走り出しが非緊張=科学的な根拠に基づいたリラックス走法を手に入れることが重要なのです。
家族や仲間の一人ひとりがロングスパンでやっていくバイクライフを真剣に考えれば、バイクに乗り始めの時にちゃんとした取り組み方を学ぶべきという筋道になります。もちろん単にバイクが大好きなライダーでもいいですが、家族や仲間の一人ひとりがしっかりしたロングスパン意識を持つことが、安全・安心、そしてさらに大きな楽しさに繋がっていくのではないでしょうか。
大事なお客様には、いつまでも元気でバイクに乗り続けてほしい。それは二輪車業界の願いでもあります。いつまでも乗り続けられる具体的な施策遂行能力──今後、各ショップに問われる課題なのかもしれません。
プロフィール
柏 秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。