ある大きなバイクイベント会場で、こんなことがありました。顔見知りの初老ライダーが、会場に到着して30分も経たないうちに「なんか、俺の居場所がないよ。場違いな感じがするので帰ります」と寂しそうに帰られた。
近年の動向を見ると、バイクイベント数は増加傾向にあると感じますが、会場が賑やかなだけでは一定数の「帰る現象」があるかもしれません。中高年ライダーをも対象にしているイベントだったら、レトロバイクコーナーとか昔の純喫茶風休憩所とかの案内があっても良いと思います。
一方で地域振興を目的としたエリア単位や販売店単位のイベント、あるいは特定機種に絞り込んだイベントになると話は変わります。集客の的が絞れるので来場者の導入が図りやすく、結果来客率も上げやすくなります。いかに「導入」するかは、外してはならないテーマでしょう。
例えば買い求めやすい価格帯のバイクが並んでいるお店でも、高額バイクが並ぶ店でも、店の中に入ってみたいと思わせる導入は外見的にも不可欠。バイクに乗っている人でも初めての店は敷居が高いもの。ましてや、今までバイクに乗っていなかった人が店内に入るのは相当にハードルが高いのです。
バイクの右も左もわからないのだから、入店するための勇気・キッカケをどのように作ってあげられるか。
たとえば常連さんが新規の人を連れてきたら、何がしかのインセンティブというのは典型的事例でしょう。
心の通う“キッカケ”作りを
実はつい先日、バイクの楽しさを再発見しました。70名集まったそのイベントでは、10名1チームで7チームに分かれてゲームをやりましたが、すごく盛り上がりました。所定のコースを1名1周してトータル10周。走行タイムは自由。10名全員がリレー式で走って主催者設定の指定時間に近いチームが優勝という単純なルール。
もちろん所要時間がわかるものはすべて使用禁止。会場の壁時計にもマスキング。各チームとも大半が初対面だったり、コース上では挨拶程度で名前も知らない同士だったけど、ゲームに勝つためにいきなり参加者全員が濃いコミュニケーションを取るようになりました。初対面の人と盛り上がり、以前から知っている人でもテンションが跳ね上がって今までとは違う顔を見れたりと、とても新鮮でした。
「たった10分のレースで10年分のコミュニケーションが取れた」と大袈裟に言いたくなるほどみなさんと仲良くなれて、心底楽しい時間になりました。大の大人が寄ってたかって、勝った負けたの大騒ぎなのですから、このゲームは最高でした。これは、ライダーが自然に仲良くなれるキッカケ作りの一例です。
バイクショップは何かと忙しいでしょうが、大事なことの筆頭はまさにこんなキッカケ作りだと思います。バイクシーズンがスタートしました。バイク乗りとバイクとの最初の接点であるバイクショップは、お客様一人ひとりとますます心の通う、楽しい場所であってほしいと願っています。
プロフィール
柏 秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。