一字千金

2019-08-30

Vol.33「原点回帰の販売店管理①」

奥井俊史/アンクル・アウルコンサルティング代表

二輪車メーカーとして販売の長期的な成否は、「販売店の強弱」に依存するものと考えている。

販売店網の強化については、HDJの社長着任当初からすぐに着手した。そのためには、最も有効な社長である私自身が、販売店訪問に比重を置いて自ら全国を駆け回った。

実際に着任当初、HDJの販売店網はわずか34店で、その上、極めて弱体で、しかもビジネス志向ではなかった。従って、私は自社の既存店よりも、将来の正規販売店の候補店への訪問を中心とした。

同時にバイク業界に圧倒的に多い「生業・家業色」の強い「有限会社」から、HDJの正規販売店になる条件として「株式会社」組織への移行を全店に求めて実行した。

当時は全HDJ販売店の90%以上が、有限会社だった。この政策の結果、業界で初めて全店が「株式会社」からなる唯一の企業集団として、HDビジネスに取り組んでもらう基礎づくりを行った。それに伴い全店から「貸借対照表」「損益計算書」を、定期的に確実に例外なく提出してもらった。販売店管理の基礎として、財務状況の把握と分析・改善への取り組みを軸に置こうと考えた。多くの販売店では、経理関係は自分で処理せず、これらの財務諸表の作成は、税理士(極まれに公認会計士)に任せている販売店がほとんどであった。そのため販売店を通した話し合いだけではらちもあかず、目的も達成できないと考え、HDJの公認会計士が招集する形で、全販売店の税理士や公認会計士を一堂に集めて、HDJの目指す統一会計処理に対する考え方などを詳しく説明し、できるだけ共通性の高い要領で会計処理をしてもらうようにした。

集めた財務諸表は、HDJでコンピューター入力し、必要項目について算定できるような分析ソフトを内製し、簡単な全店の財務分析を行った。これでやっと全店の数字を集めて、意味のある経営管理上の標準値や平均値・指数が算出できるようにもなった。

そうでなければ、せっかく財務諸表をいただいても、分析結果を意味のある参考数値として販売店にフィードバックすることができない。店の収益改善にもつなげられない。分析結果を販売店にも提供するとともに、HDJのフィールドマン(地区販売店担当者)の販売店の改善強化活動に役立てられるようにしていった。

この活動の実践により、赤字ないし収益性の低い販売店に対して、強力に改善提案ができるようになり、ビューエルを含むHDJファミリーにおける赤字店は約180店のうち、毎期トータルで3~4店に大幅に減少した。販売店管理の基礎は、販売店の収益性の向上管理にあるという考え方で臨んだ。

また、当初は会計数値の収集・分析により実践活動の参考として、新車、中古車、部品の販売、そしてカスタムやサービスの収益、保険手数料などの付帯収益、クラブ活動・ツーリングなどの営業活動分野別(これらの活動分野を総称して「プロフィットセンター」と呼び、各センターでの収益強化に取り組めるようにする目的)の、収益状況などが具体的かつ詳細につかめるのではないかとの甘い期待も持っていた。

しかし、財務諸表の分析だけでは難しいことが判明し、販売店活動を財務的に裏付けるためには、さらに一工夫を要することがはっきり分かった。そこで多少時間をかけて幅広いデータの収集・整理・分析・配布活用が行える体制を作っていった。

販売店から財務諸表を受け取り、これを分析し、同時に全国で同様な経営規模の販売店にクラス分けして比較・分析した経営参考数値を、定期的に販売店に提供するという当たり前の事柄を、継続的に実践する唯一のバイクメーカーとなった。

(続く)

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)

1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。