一字千金

2020-01-01

Vol.35「凡事の「非凡な徹底」を 混迷する市場から脱却するために」

奥井俊史/アンクル・アウルコンサルティング代表

国内の二輪車市場はここ数年低位で停滞している。2018年はわずかに約36万9000台の販売実績であった。19年も飛躍は残念ながら期待できない。

こんな市場の状況では経営販売目標台数の立て方も変えるべきである。筆者が米国二輪車メーカーの日本法人に勤め始めた90年も、市場の状況は今よりはまだ良かったが基本的には大きく変わらなかった。そこで毎年の販売目標台数は明確には打ち出さず、「持続的に毎年4%程度の販売成長を目指す」ことを経営目標とした。

明確な数値目標を掲げて、その達成を追いかけることはしなかった。それを受けて販売店とメーカーである自社間の、販売目標台数に関しても数字を重視することはなかった。そのあいまいな目標台数も、4半期ごとに状況に応じて現実的な見直しを行うことで調整した。

米国本社と我々の子会社の間には、それなりの厳しさで年間生産・引き取り・販売台数の取り決めは存在した。そこで我々が販売店と本社の間で調整弁の機能を果たしていた。日本での販売店網の構築に関しては、100%我々に権限があった。

国産4社よりは随分と後発で、市場への本格展開を行ったので、販売店開発にあたっては「ブランド専売条件」を打ち出すことはなかった。それでも当時、山口県のあるディーラーが、すべて独自の経営判断から、まだ店舗標準がない時代に、素晴らしいライフスタイルを店頭で展開できるお店として改装を実施した。

実際その後しばらくの間、我々は店舗改装を計画する他店に参考として、その販売店への訪問を勧めた。結果的にその山口県のディーラーは、専売の店舗になったが、それもディーラーの社長の優れた経営判断によるもので、我々が要望したわけではなかった。

このような先行事例を学び、またディーラーとの意見の交換を通し、さらにUS市場での本社のストアーデザイン店舗のプログラムを参考にしながら、日本の販売店(網)計画、店舗展開プランを確立させていった。全社でのブランド専売店化、いずれかの独立拠点の専売化、併売拠点内での部分的な専売化(ショップ イン ショップ)など、柔軟に対応した。いずれにしろ専売店化を目指す以上、ビジネスの収益性の強化は絶対条件であるために、我々では新車・部品販売・サービスなど、いずれの営業部門においても最高の収益を実現できるように、業務の効率化を目指すビジネスモデルの開発・展開に努力した。

販売店と我々メーカー側が連動して導入・実践できるように自社体制も強化していった。そのためには、有効性が高かった私自身による多数の販売店訪問の実施、自社に関係する公認会計士や中小企業診断士などを活用した、ディーラーの経営に対する個店別支援プランの展開、年5回におよぶ全国販売店会議の開催などを行った。

しかし、販売店選択基準の重要項目として販売店の経営規模や、販売台数を取り上げたことはなかった。また、販売台数の大小によって販売店に適用するビジネス条件を変動することもしなかった。目指したのは販売店業務の効率化であった。そのためにSFA(販売力の多面的な数量分析)を採用し、データ分析を重視した。その上で最重要視したのは、販売台数の多寡と直結する顧客開拓への取り組みであった。

いま大阪市場で活躍するあるディーラーは、交渉をした時点では、会社並びに店舗の開設後、半年ぐらいで従業員も2~3名前後。近くのディーラーなどとは、比較にならない弱体な状態であったが、それでも正規販売店として起用した。我々ときちっとしたお付き合いができれば、そのお店の拡大・業務の充実はおのずとできるという考え方で、ディーラーの社長の人格・行動力を重視した。

顧客に対する取り組みの良し悪しは、販売店の規模とは無関係だ。企業規模を問わず、ディーラーの社長が顧客に提供する楽しみの「顧客マーケティング」に注目した。成長に必要なビジネス経済条件は、我々が提供していると考えていた。

販売店会議では具体的なビジネスモデルの内容を提案し、その内容の実践を求めたが、その中に共通するものとして常に「凡事の徹底」を求めた。「やるべきことを、やるべき時に、やるべきように」「当たり前のことを、当たり前のように」。この2つのフレーズにすべてを託して10年間繰り返し叫び続けた。

このやり方を実践すれば経営効率も上がり、スタッフもより集めやすくなったことを実感している。最も改善効果の上がる、私自身による多くの販売店訪問の実施、我々が世話になっていた公認会計士や、中小企業診断士なども活用し、販売店の経営改善に対する「個店別支援プラン」の展開、年5回に及ぶ全国販売店会議の開催など、地道に販売店強化策を実行した。しかし、販売店選択基準の最重要項目としてディーラーの経営規模を取り上げたことはなかった。

販売店会議ではいろいろとたくさんのことを話し、テキストに収録して配布し、その実践を求めたが、その中に共通するものとして、常に先に書いた2つのフレーズを繰り返し話し続けた。

顧客への取り組みは、販売店規模やメーカーとの関係性の如何を問わず、特に市場の規模の縮小の中にあっては、より重要な要素として販売店業界において、再検討されるべきではないかと考える。

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)

1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。