業界人/Interview インタビュー

2019-07-19

メカニックを「心から」支える

内藤学氏

安全・サービス分野全般で活動

「俺達はバイクを直すんじゃない。メカニックを治そうぜ!」――。先輩のことばが腹に落ちた瞬間を㈱内藤技研(神奈川県中郡)の内藤学社長はこう話す。戦国時代といわれる元ハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)で、サービス担当を経て2001年に独立。メカニック対象のサービストレーニングや安全走行セミナーなど、プロからユーザーまでを対象に幅広く各種セミナーなどを手掛ける。メカニックから「心から頼れる」兄貴的な存在だ。

内藤氏はテクニカルアドバイザーとして当時のHDJと委託契約し独立した。新型車テストやディーラーメカニックの支援、各種関連データの収集など、技術分野やメカニックの背中を支えてきた。これまでディーラー対象のテクニカルサービススクールの8コースを受け持った。ほかにも2級二輪整備士の専門学校での講師やトレーニングセンターでのインストラクター、サービスマニュアルの制作から整備時に使うタンクカバー、メカニックユニフォームの提案と制作などにも幅広く着手。現場の意見をHD本社にも反映してきた。

内藤氏は19歳から自動車ディーラーメカニックを経て、海外でサービスの現場を経験、その後、HDJに入社。19歳の当時はメカニックといえば洗車から始まり、先輩に蹴飛ばされて鍛えられてきた。今では「メカニックの喜びも悩みもわかる」という。自らも経験してきたメカニックとして成長の段階で、おごりや失敗、悩み、壁に突き当たるなど「メカニックは5回腐る」と指摘する。

大学卒のエリート社員から「毎回よく同じトレーニングをやっていられますね」と尋ねられる。内藤氏はそれに対し「毎回同じトレーニングなんてないんだ。俺たちは機械が相手じゃない。プロとて10人いたら10通りの悩みや苦しみを、皆が抱えている。これに耳を傾けるのがインストラクターの使命」と言い切る。

昔、先輩から「俺達はメカニックを治そうぜ!」といわれたことを、内藤氏は今も心に刻んでいる。「メカニックは意外と、心が折れやすい純粋で繊細な人が多い。だから彼らメカニックにこそ、メンテナンスが必要なんだ。サービストレーニングはHDファクトリーの正確な情報提供はもちろん、彼らのメンテナンスと考えてやってきた。時には天狗になった鼻をへし折ったり、腐っているメカニックには〝心に火を〟つけてやらねばならない」と強調する。

店舗に個別トレーニングに行く際は、早めに到着し出勤スタッフの表情を診ることにしている。「大体が皆さん、暗い顔」して出社するという。朝礼でも数字の話で始まり、今日も一日…」。こうした時は「ちょっと待った!自分たちは葬儀屋じゃない。お客さんの人生を変えるかもしれないほどの、バイクを扱っている。お客さんは爽快な週末を手にしたいと思って来店される。そんな暗い顔でどんな対応ができるのか。このままでは店は開けられない」などと店舗スタッフ、時には経営者にも直球でもの申す。だが内藤氏の心情を皆理解できるからこそ、一層の信頼関係が生まれている。

近年では、経営者、工場長、マネージャーを対象にディーラー社員の離職防止トレーニングも実施。離職や退社の多くは「やりがい」「評価」「人間関係」と指摘する。こうした悩みにも時には「共に走り、焚き火を囲みながら対話する」こともあるという。「若いスタッフが生き生きと働いていない店には、お客さんも集まらない」と強調する。

トレーニングやセミナーでも受講者の中には、会社に言われて受ける者もいる。終始冷めた暗い表情で受ける者も少なくないという。そうした参加者にこそ個別に向き合い「何をイライラして?何が辛い?。全部おれが受け止めてやるから吐き出せ」と悩みを聞くと、話の途中で涙する者もおり、悔しさを共にして泣くこともあるという。だが「バイクが好きなんだろう。一緒にやろうぜ」と励ましメカニックの心に火をつけ支えている。

熱血漢で、業界の松岡修造といわれることもあるが、「テニスで人は死なない。バイクは、楽しいだけじゃない。時にはメカニックのミスでお客さんが死ぬんだ。俺たちは本気の奴と本気で仕事したいだけだ」といい返し、メカニックの仕事の重大さを知らしめる。

一方で、オーナーズグループの活動にも取り組む。近年ではユーザーはモノではなく、気遣いや遠慮のない「つながりやコミュニティ」を求めているとも指摘。「バイクに求める価値観が大きく変わった。もうステイタスなど求めていない、結局モノでは満たされない。思いがけないサプライズ、何か心弾む要素のあるコトが必要ではないかとしている。今どきの人はお金の匂いに敏感であり、また作り笑いはすぐにバレる。損得を中心にするから、我々自身も心から、楽しむことはできない」と述べる。「もっと多くの若者にバイクの楽しさを知ってもらいたいなら、自らユーザーの熱狂の渦に巻き込まれるべき。若い人は冷めていない。あの頃の自分たちと同じ熱を持っている」。マーケットを語り、嘆くよりも「我々が走る、楽しむコトを忘れていたのに気づくだろう。店頭でのいかなるセールストークよりも、我々が二輪のプロとしてリスペクトされる瞬間がなければ、商機は生まれない。だからこそ根底には我々のビジネスをまっとうするためにも、Safety First(安全第一)でなくてはならない。これは過去よりぶれていない」と姿勢を述べる。

試乗会では先導や安全管理などの委託も受けている。こうした現場では「ライフガードとしての冷静な観察眼を秘めながらも、自分たちが、楽しく開放感を演じるのではなく、心から走ることを楽しんでいることが大切だ」とも強調する。一方でライディングスクールの実施は考えていなかったとするが、これまで試乗会で年間約1万人以上の免許保有者をみて、明らかにライディングスキルが低い者が多いことに気づき、独自のトレーニングメソッドを作り、その提供も行う。

同社ではHDJと契約関係にありセールス、パーツ、サービスマネージメント・トレーニングやオーナーズグループ向けのライディングセミナーのほかにも、教習車の開発や個人ライディングレッスン、現場にメスを入れる経営コンサルティング分野まで、業務は多岐にわたる。「バイクの安全に関しては、常にニュートラルな立場」と考えている。30年間続けている「全てのライダーの事故防止と応急手当て」の普及活動、MotorcycleRiskManagement(モーターサイクル・リスク・マネジメント)は、メーカーやブランドを超えた活動を今後も継続、注力していくとしている。


内藤学氏

紙面掲載日:2019年7月19日