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2019-09-27

Vol.11 会社を他人へ譲った私の体験談③ 悶々とする時を超えて

新体制となった会社では私は新社長を尊重し、一歩下がって仕事をすることを旨とした。「意思決定は自分でしない」という自己ルールも決めた。お金のことは特に重要で、一切の口出しを止めた。さらに、仕事の差配、担当分野の決定、作業計画も自分では決めない。

こうしたルールは、会社が新しいトップを迎えるときには不可欠の要素だと思う。

しかし、当事者は現実には頭で分かっていても、行動が伴わない。意識と違うことをするとストレスが溜まる。言えない言葉が胸に詰まる。「仕方ないね、自分で選んだ人に、自分で任せたんだから」そう言い聞かせる日々もあった。

ある日、自分が知らないうちに新しいプロジェクトが動き始める。私に根回しもなく、担当者が決まり、仕事が始まったのだ。

日常業務で忙しいスタッフに、「何してるの?」と聞くこともあったが、だんだん自分の仕事以外には気が回らなくなった。加齢による忘却力の増加もあり、都合の悪いことや、無関心なことがどんどん記憶の彼方に去っていく。

こんなことは現役社長時代にはありえなかった。会社の隅々まで、私の神経が通い、おかしなことにはすぐに気づき、即座に修正を実行してきた。しかし、引退後は自分の衰えを理由として、仕事量も加減し、無理なく働ける範囲に身を置くことになる。その加減が難しい。

自分ではできると思っているのに、今まで通りと思っているのに、トラブルに巻き込まれたりする。何がいけないのかと思い直すと、自分の責任感が乏しくなっていることに突き当たった。

これはいけない。自分が緩んでいるのは、自分のせいだ。顧客満足度を上げることが出来なければ〝老体は仕事から引っ込め〟と言われてしまう。

経営革新は、待ったなしで押し寄せる。時代に合わせて変化したものだけが生存を許される。

今までの勘と経験に頼った私の時代は終わった。新しい経営とはどういう形がふさわしいのか。じっくりと横から眺めながら、上手なサポートができれば良いが…と、少し客観的に会社を見ている自分がいた。

(続く)

〈筆者紹介〉

内藤博/事業承継センター取締役会長

1952年横浜生まれ。

27年にわたる二輪車関連出版社勤務を経て、2003年に独立。事業継承の専門家として1000件を超える経営相談、事業承継の実績を持つ。自身がベンチャー企業取締役として、成長発展から縮小リストラまで経験した強みを生かし、単なる承継問題にとどまらず、時には家族会議への参加や親子間の仲介も行う。著書「これから事業承継に取り組むためのABC」他。

紙面掲載日:2019年9月27日