トピックス

2019-11-22

Vol.12 会社を他人へ譲った私の体験談④ 最後の重要なテーマは「思いやり」

事業承継はすべての企業を巻き込み、大きなリスクとなる社会現象だ。自社を取り巻く環境変化に上手に対応することが経営者の使命である。

令和時代の企業にとって「後継者がいない」という事態は普通に起きる。時代が平成に代わる頃から「後継者は他人」が大きく増加した。とりわけ従業員や取締役から後継者を選び、会社をつないでいくことが普通になってきた。

令和時代はM&Aの全盛期を迎えようとしている。仲介斡旋の業者は雨後の筍のように生まれ、覇権争いまで起きている。国が全国の都道府県にあまねく用意した「事業引き継ぎ支援センター」も、M&Aを主業務としている。

事業承継は会社という個人の資産が、経営者の寿命が尽きる時に、次の世代に円滑に渡っていかなければならないということなのだが、その人が創業者である場合には、会社と個人が一体になっていて、引き離すことが容易にできないので、周囲は大変苦労することになる。

ましてや、カリスマでワンマンであれば、従業員や取引先までが「引退しないでほしい」と口にするものである。

高齢の代表取締役が長く居座ることによるデメリットは何であろうか。私は「老害の発生」だと思う。後継者や従業員の成長を阻害することが一番の課題だが、よく観察すると、それ以外にもリスクが見えてくる。

とりわけ、守りの姿勢が強くなり投資に消極的になり、無借金経営が目標になっているのを見ると、我欲が強すぎて周囲が見えない孤独の姿に、悲哀すら感じてしまう。無借金経営は高株価を呼び込む。そのため後継者には納税資金の準備が不可欠となる。純資産が増えていると、逆に後継者は苦しむことになる。

それよりも必要な未来への投資を適宜行って、決算書の黒字幅を圧縮し借入と資産をバランスよく保っておけば、後継者の苦労は大幅に減る。

人の人生には決まった終わり方はないが、代表取締役という肩書には歴然とした賞味期限があるのだ。

さて最後になるが、引退する現経営者への配慮について考えたい。

会社と一体に生きてきた経営者が現場を見る目は、いつくしんだ子供を見るような、慈愛にあふれている。現場こそ生き甲斐そのもので、自分の人生のコンテンツがすべて詰まっているのだ。

彼が現場を去らねばならない時、いったいどんな思いが胸に去来することだろうか。

「辞めていく社長の気持ち」を理解することも、事業承継で会社を次の世代へつなぐためには重要なファクターだ。思いやりや共感を持たなければ、後継者が円満に先代から事業承継を受け取ることはできない。人として〝思いやりを持つこと〟を最後の重要なテーマとして考えてほしい。

〈筆者紹介〉

内藤博/事業承継センター取締役会長

1952年横浜生まれ。

27年にわたる二輪車関連出版社勤務を経て、2003年に独立。事業継承の専門家として1000件を超える経営相談、事業承継の実績を持つ。自身がベンチャー企業取締役として、成長発展から縮小リストラまで経験した強みを生かし、単なる承継問題にとどまらず、時には家族会議への参加や親子間の仲介も行う。著書「これから事業承継に取り組むためのABC」他。

紙面掲載日:2019年11月22日