前回は、大型店でもそうではない店舗でも大事な、お客様との「絆作り」をテーマにしましたが、今回は「絆作り」をもう少し掘り下げてみます。 

スクールの受講生Aさんは、駐車場に大型クルーザーマシンを置いたきりで、サビが出てタイヤはペッタンコ寸前の状態だとの連絡が。

さっそくご自宅まで伺い「なんとかしましょう!」と、Aさんを励ましつつ簡単な整備をし、大型マシンの取り回し方をじっくりとアドバイス。その後、ご自宅周辺で走りをチェック。私と同じ年齢のAさんは、バイクライディング熱に再び火が付いて、今では羽が生えたように全国あちこちを走り回っています。

ある販売店から依頼があり、Bさんのレッスンを受け付けました。バイク置き場ひとつをとっても事情や都合が異なるので、現場に行かないとわからないことが山のようにあります。 

案の定、狭い駐車場のため取り回しは簡単ではありません。しかも乗車したのは良いけど、今度は車体が起こせず、サイドスタンドも払えない状態。ならばバイクを起こす手立てから始めなければなりません。時間はかかりましたが一緒に問題を解決。取り回しも停止時の安全安心も、手に入るようになりました。

その後、旦那様の形見であったそのバイクで、彼の生前の夢だったという北海道ツーリングを実現しました。

3つ目の事例は、定年退職後にバイクライフをスタートさせたCさん。奥様の反対によってバイクを購入することはできませんが、レンタルバイクなら良いという許可をもらっています。

しかし、普段はスクーターしか乗っていないためか、どうにもマニュアルミッションの操作がぎこちなくてアタフタ。70歳になってからのマニュアル操作のため、なかなか要領のいい運転にならない状態です。でもCさんは諦めずにコツコツと練習を重ねています。

夢はバイクで北海道を旅すること──正直言って最低でもあと数回ほどレッスンを受けていただきたい状況です。

バイクライフを今以上に充実してもらう

他にも、いろいろなケースで出張スクールをすることがあるのですが、もしも受講していなかったら、みなさんバイクを降りていたと思います。

これに似た事例を過去にも本欄で取り上げたことがありますが、正直言って、販売店のすべてがこのような顧客対応ができるほどの余裕がないことは知っています。私みたいに小回りが効く人間が、少数ながらでも必要とされているのかもしれません。

しかし大事なことは、販売店側の都合ではなく一人ひとりのお客様を思って“ちゃんと乗れる”次元に進む、きめ細かいお手伝いをしてこそバイクライフが成立するということです。バイクが売れさえすれば良い。それも良いですがもっと良いことは、お客様のバイクライフを今以上に充実してもらうこと。そのためのバイク専門店でありたいですね。私が願う「絆作り」はここにあります。

プロフィール

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。