左よりダートフリーク電動バイクグループのリーダー・浅野あかね氏、石田敬一郎社長、ゲンさん開発にあたったデザイナー・伊藤隆文氏
1990年に創業した㈱ダートフリーク。オフロード領域において世界各国の有名ブランドを取り扱う総代理店であり、また大手アフターパーツメーカーとしても知られる。2017年からはオンロード領域を主戦場とするデイトナのグループ会社となった。19年には、グループ会社の役員を務めていた石田敬一郎氏が代表取締役社長に就任している。
「デイトナとダートフリークとでは造っているモノは異なるが、互いに吸収できる要素も多くある。相互にベンチマークし、情報交換を重ねることで、それぞれの良いところを学び取ることができている」
シナジーを生み出す土壌について石田氏は語る。同社によるDFGブランドのライディングウエアも各種バイクメディアで見かけるが、こうした製品も何か好影響を受けているのだろうか。
そんなダートフリークが、オリジナルバイクの開発に着手したのは16年秋頃。プロダクトデザイナー伊藤隆文氏が入社した時からだという。工業デザインを学び、トヨタグループの車体メーカーで経験を積んだ伊藤氏はこう振り返る。
「入社していくつか提案した製品企画のひとつが、子供用電動バイクでした。当時3歳くらいだった自分の子が乗れるような、軽いバイクが欲しいという動機で……」
個人的な事情がきっかけでゆるく始まったと伊藤氏は笑うが、この企画から生まれた「Meow(ミャウ)」は、ダートフリークの電動バイクブランド「ヨツバモト」の屋台骨に。後に上級機種「WOOF(ウーフ)」も加わり、今やヨツバモト育ちのライダーがモトクロスやトライアルの大舞台で活躍しているという。
ヨツバモトのキッズ用競技車両WOOF(ウーフ)
「ウーフのプロモーションビデオに出演してくれた子の一人は、既に全日本トライアル選手権で上位入賞を果たしているんですよ」
伊藤氏は顔をほころばせる。
そんなヨツバモト・シリーズの第3弾であり、初の大人用、そして初の公道走行できる電動バイクとしてGE-N3(以下ゲンさん)は誕生した。
開発が始まった22年当時は「石田社長がミニバイぱにっく(ミニバイクによるエンジョイエンデューロレース)のコースを走破できる性能」を求められたと伊藤氏は公言している。ダートフリーク社長に就任した50歳の時にオフロードレースを始め、自らその楽しさを発信している石田氏。お楽しみが高じてゲンさんの開発を命じた、ということでは無論ない。「社内向けに伝わりやすく表現した」のだと石田氏は苦笑する。「電動バイクの快適さ」を広めたいというのが真意だった。
「ガソリンエンジンのバイクには、『熱い』『油臭い』といったマイナス面がある。それを払拭できるのが電動バイク。街中を手軽に軽快に走ることに特化すれば、そのメリットを大いに享受できる」
当初からシティコミューターとして打ち出す意図はあった。オフロード性能は付加価値だ。
「やはりダートフリークはオフロードのメーカー。この車両でオフロードのレースも楽しめるというパフォーマンスが欲しいところ」
そうした発想から、プロライダーならずとも難コースを走破できる性能を求めた。これに応えるべく伊藤氏が考えたのは「かつてのホンダCRM50やヤマハDT50のような、楽しい原付オフローダー。それでいて街に馴染む」という電動バイクだった。
原付一種のシティコミューターというキャラクターも、意外やヨツバモトの延長線上にハマるものであった。
一般的に、スピードを求めるとバッテリー消費が厳しくなる。そこで航続距離を伸ばそうとすれば、こんどは重量がかさむ。両方をクリアしようとすれば、自ずと高価なバッテリーやモーターが必要となる。
そこでコストを抑えつつ、無理なく生産できるよう開発するのが腕の見せどころ。トヨタ系列出身たる伊藤氏の本領発揮だ。開発当初に定めた「車両価格50万円未満」は堅守した。「普及グレード」のバッテリーとモーターを色々と組み合わせた。「どんなに重いバッテリーを積んでも大丈夫なよう床の部分には強い鉄板を使った」試作フレームに、あれこれ括りつけて試走を重ねた。後輪にモーターを内蔵するタイプや、二輪駆動車も試した。
競技車両のフレームに、様々なバッテリーとモーターを搭載。テストを重ねた
なおかつ、ここで伊藤氏は「車両重量60kg以内」という命題もクリアしている。
そうして前輪19インチ/後輪16インチのミニモトクロッサー然とした電動バイクが完成しつつあった。かなりポテンシャルのある車両だと自信を深めつつあった伊藤氏だが、そんな彼のPCを覗き込んだグループリーダー・浅野あかね氏から重い一言が降りかかる。
「可愛くない」
シティコミューターとして、致命的な指摘だった。曰く、後部の跳ねあがったオフロードバイクの形状は、一般的な女性に好かれるものではない。その跳ね上げを抑えてはどうだろうか、と。
喧々諤々の議論を経て、伊藤氏もひとつの気づきを得た。「ほぼ真四角型のバッテリーを如何に隠してデザインするか」という従前の思考から抜け出したのだ。
「四角いものを四角く表現して何が悪い、と。構成する部品を素直に並べていって、魅力的に見せる方がプロダクトとして正しい姿なのではないかと思い至った」
街に馴染むスマートデザイン
そうして出来上がったのが、水平基調のデザイン。ホイールサイズも前輪17インチ/後輪14インチとし、丸いヘッドランプも相まって親しみあるネオクラシックの風情も身に着けた。この出で立ちが石田氏にとっても予想外であったという。
「ダートフリークとしては異色のデザイン。それでいて実際にハードエンデューロのコースを走ってみても、性能は十分」
ダート走行も得意中の得意
このパッケージで、価格も目標を大幅にクリアした税込39万6000円。面白いものが出来上がったと量産化を決めた。
車両重量も58kgと軽く、浅野氏が全国の販売店に営業訪問する際も、軽ワンボックスカーに積んでいけるのだという。
「両手ブレーキということもあり、1人での積み下ろしにも不安はない。ご家族のレジャーにも安心してお薦めできる」
現在このゲンさんを取り扱う販売店「GE-N3 SHOP」は、全国30店舗以上。今後も積極的に増やしていきたいという。
「離島に暮らす個人のお客様から、直接お問い合わせをいただいたこともある。そうしたご要望にもお応えすべく、販売網は拡充していきたい」
中国の生産工場とも対話を密にし、細部に改良を加えた100台が7月に入荷している。
取材の最後に、記者も試乗する機会を得た。出力モードを切り替えながら、出足の良さを体感。「自転車ならまずもって登りたくない……」と感じる坂道も、体重87kgの(つまり車両より約30kg重い)記者を乗せて難なく駆け上ってくれるではないか。乗り慣れた石田氏や伊藤氏に至っては、軽々とフロントアップをしてみせてくれた。
さらには、ナンバーを外して競技仕様にすればもう一段階、出足の鋭いマシンになるのだという。
「クラッチ操作もギアチェンジも要らない電動バイクなら、あまりバイクに乗り慣れていない人がオフロードを走ってもとっ散らかる心配がない」
普通免許しか持たない人でも、街を駆け出せる原付一種の電動バイク。オフロードへの扉も難なく開いてくれるだろう。様々なハードルを軽快に超えさせてくれる1台だ。
▽税込価格=39万6000円▽車体色=ブルーグレー、アンティークグリーン▽全長=1820mm▽ホイールベース=1255mm▽シート高=790mm▽出力=定格600W/瞬間最大3000W▽電圧=72V▽容量24アンペア▽区分=第一種原動機付自転車(50cc相当)▽航続距離=約50~60km▽充電時間=約4時間▽タイヤサイズ=前2.50-17/R3.00-14▽車両重量=58kg
【販売店問合せ先】
(株)ダートフリーク ℡0561-86-8304(担当:浅野)
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