プレスパス発行窓口も大混雑
開始予定は10時ながら、本紙記者を乗せたシャトルバスは定刻を30分過ぎても発車せず。各国の取材陣がようやくそろい、会場に到着したのは9時25分であった。「地下鉄で向かうべきだったか……」と嘆きつつ、入場ゲートでプレスパスを発行してもらう。そのうちに朝一番にあったもう1社のプレゼンが終わってしまった。
とんだ珍道中となってしまったが、何とかホンダの発表開始直前、満員の会議場に滑り込む。立ち見する取材者たちの間を分け入り、録音と撮影をする隙間を確保。NC750Xなどの新型車、そして2台の電動二輪車コンセプトモデル、世界初となる二輪車用電動過給機搭載のV型3気筒エンジンコンセプトが公開されたのは既報の通りだ。
ホンダのプレゼン終了後、壇上に集まる取材陣
その場でとりわけ記者の耳に力強く届いたのは"This is a real game changer"(これが真のゲームチェンジャー)という言葉。電動二輪車「EVファンコンセプト」「EVアーバンコンセプト」を紹介する中で発せられたものだ。
「これは従来とまるで違う物、新しい未来に備えています。そして、このバイクはホンダのバイクのあらゆる特性を備えています。コンパクトで扱いやすく、極めて機敏です。街中を走り抜けることも、高速道路を巡ることも、同じように簡単にできます」
これは従来の乗り物とまるで違う物、真のゲームチェンジャーだと力強く発表
30年までにグローバル電動モデルを30機種投入すると既に発表していたホンダの、いわば気迫を感じさせる発表であった。
その日の午後、記者は他の日本人ジャーナリストたちと共に個別インタビューの機会を得た。対応してくれたのは、本田技研工業 電動事業開発本部二輪・パワープロダクツ電動事業統括部の浜松正之氏とチーフエンジニア・田中幹二氏だ。
ホンダモバイルパワーパックe:とは異なる、新たに独自開発したバッテリーを搭載した2機種。それらには電動二輪においても世界の頂点を勝ち取るのだ、という思いが込められている。
「社会的責任としてカーボンニュートラルを目指す中で、現在のところ最も身近な存在が電動二輪車。ホンダは二輪車においてナンバーワンメーカーなので、この領域でも勝ちたいという思いがある」
浜松氏が力強く語る。これは電動に限らず水素エンジンであろうと何であろうと、変わらぬスタンスであるとも。
二輪車においてNo.1メーカとして、電動の領域でも勝ちたいと語る浜松氏
とりわけホンダが長年にわたり磨いてきた「走る・曲がる・止まる」の性能を受け継いでいるのが、EVファンコンセプト。設計開発の方向性は、従来のモーターサイクルのそれを踏襲していると田中氏が解説する。
EVファンコンセプト
「電動となれば先進的というイメージがあると思う。しかし、あまりに先進的過ぎても、現在モーターサイクルに馴染んでいる方からすれば、かけ離れたものになってしまう。いわゆる半歩先ぐらいのところを狙った。少し新しさと未来感を持ちつつも、やはりモーターサイクルらしさ、メカニカルな部分を残しつつ、電動ならではのスリム感もかけ合わせた外装で新しさを出した」
ただ、その中でも「ここはICE(内燃エンジン)ほど確認作業が必要ない」「電動車は制御がやはりキーになってくる」といった発見は多々あるという。
そうなると、やはりファンバイクである以上は電動であっても乗り味、フィーリングは変わらないものであろうか。そんな問いに対して田中氏は、個人的な意見としつつ「乗る場所(ステージ)を大きく変えない限りは、同じモーターサイクルであるため操作の仕方はそう変わらない。ライダーと車体の重心をどのようにコントロールするか、という点においては」と説く。
電動であっても操作方法は本質的に変わらないと説く田中氏
また浜松氏は「(ライディングの)素人として乗ってみて感じるのは、加速感は異次元。その楽しさはある」と付け加えた。
そこから操縦性をめぐる取材陣とのディスカッションが広がり、電動車ならではの重量であるとか、エンジンブレーキがないといった差異について語られた。また、それらがある一方で、電動車ならではの強みとして、回生ブレーキの強弱をコントロールできる点があるとも。
そうした要素を踏まえ、よりハンドリング操作に集中できるという魅力も見出されているもようだ。「次のステージ、新たな乗り方を演出できるのではないか」という。
また、ホンダならではというところでは、電動四輪車の知見を取り入れている部分が「大いにある」と田中氏。四輪車と同じ規格の普通充電タイプ2、急速充電器CCS2に対応。四輪車向けのインフラを共用でき、なおかつ航続距離は100km以上を想定して開発が進められているのがEVファンコンセプトだ。
ツーリングユースを充足させる「真のゲームチェンジャー」として、国内外の二輪車販売店に、そして街道に姿を見せる日は25年を予定。そしてその先に「お客様のニーズに合わせて(バリエーションモデルを)準備していく」という展望を、ホンダとしてはやはり持っているようだ。
EVアーバンコンセプト