今年で創立50周年を迎えた、埼玉県朝霞市のカスタムシートメーカーの(株)ケイ アンド エイチ(K&H)。代表の上山力氏に、会社と自身の歩みを振り返ってもらうインタビューの続き。本稿ではシートメーカーとしてのフィロソフィーや自社への想いを語る。

(株)ケイ アンド エイチ 代表取締役 上山 力氏

取材に応じる上山氏。ショールームは商談用のカウンターも設けている

2002年頃からハーレーダビッドソン用のシートをリリースし、次はBMWだと04年に開発車両としてR1200RTを購入しました。ヤマハのSRを中心とした、比較的若年層へ向けたメーカーのイメージが根付いていたこともあり、これら2メーカーへの参入は大変なものでした。SRのシートを作っていたような会社が、ハーレーのシートを作れるわけがない!!……と。

ハーレー用を多数販売し認知されたとしても、今度はハーレーのシートを作っているような会社がBMWのシートを作れるはずがないと、散々言われました。その度に悔しい思いをしましたが、なんとかそんな声を跳ね飛ばしたくさんのお客さんから支持を得られてきたと思っています。

シートを作り始めた当初は、お尻が痛くなりにくい、足つきのよいシートというのを強く意識していました。今ではその二点は備わっていて当然の要素であり、最大のセールスポイントは別にあると考えています。“ライダーが主役になれる”シートです。オートバイを自ら操作し走らせ、より楽しさを感じられるシートを提供することを使命としています。

見た目が良い、乗り心地が良い、お尻が痛くなくなった、足つきが良くなったということより、バイクに乗るのが楽しくなった、と言われるのが一番嬉しいです。

ここまで30年近くシート作りのノウハウを蓄積してきました。ステッチ一つを取ってもそれに対して裏糸はどの程度張るのか、レザーをスポンジへ張り込む際の引き込み具合によってもステッチの陰影が深く出たり浅く出たりもします。何号糸を使うのか、縫いのピッチを大きくするのか、小さくするのか、真っ直ぐなのかカーブが緩いのか浅いのか、内アールなのか外アールなのか、均一に縫えば上質に仕上がるわけではありません。端々の細かい所で最終仕上がりの印象に大きな差がでます。手に持ち何となく上質に感じる物というのは表面上だけではなく、微に入り細を穿つように作っているんです。

手のひらや指先の感覚を通して製作するので、手は大事な「ツール」でもあるという

会社にアルバイト入社した当時は、株式会社ではありましたが、中山(博氏)の家族経営という体裁でした。正社員となり、そこから社会保険など会社組織として整えていきました。私自身も社員の面接・採用などを任され徐々に人も増えていきました。

創業者の一人である秋元は私が入社した時には相談役でした。FRPに使うファイバーにアレルギーがあったので、あまり工場へは入りませんでしたね。秋元は時々店に来て、バイクの話をする気の良いオジサンという感じでした。年配の人が集まると昔話に花が咲くものですが、中山も余り過去の仕事の話をしません。聞けば答えるけど自分から自慢話のようなことはしないんです。私は割とそのスタンスが好きで、おしゃべりな自分もなるべく昔話はしないように心掛けています。

ここまで商品作りの話をしてきましたが、販売の話もしたいと思います。ヤマト運輸が代金引き換えサービスを始めた時に、今後は物の流れが大きく変わっていくと感じました。それまでの決済は、店頭販売を除くと銀行振り込みか現金書留が主でした。販売店や卸など中間業者を挟まず、お客さんが直接メーカーへ商品を注文する時代が来ると。よりお客さんへダイレクトに訴求し販売していこうと考えました。

店頭に全ての試乗用シートを用意し、以前に比べ多くのイベントへ出店するようになったのもこれを起因としています。直接お客さんへ説明し、理解を深めて購入していただく。そうした取り組みを続けてきたことにより、店頭以外では自社ウェブからの注文がメインになっています。

K&Hは『町の中華料理店』だからいい

商品価格について勉強になることがありました。随分前の話ですが、年に2回割引きセールを行っていました。セール中は売り上げが伸びるのですが、告知をするとセール前後で売上げが落ちるんです。逆に、商品の値上げを告知した時、値上げ前月に売上げが一気に伸びました。翌月はグンと下がるだろうと覚悟していたのですが、客数はそれほど下がらず平均的な売り上げでした。翌々月以降も客数は減らず、値上げ分売り上げが伸長、その後も同じように推移していきました。

安くなったから買う、高くなるからその前に買う。購入者は買うときに得をし、損はしたくないのだなと改めて気が付く出来事でした。今、購入しようとしている人たちは、過去の価格ではなく現在の価格を見ているのだと知りました。それから商品価格とブランディングについて深く考えるようになりました。

うちはメーカーなのですが、店舗を構えお客さんと積極的にコミュニケーションを取るようにしています。店舗(朝霞のショールーム)でお客さんの愛車に弊社のシートを装着して試乗してもらうほか、イベントや二輪車販売店、二輪車用品店へ出張・出店して試乗会を行なっています。試乗前と後で、社員がお客さんへ説明するのですが、新商品が出来上がった際には、必ず社員に純正シートと商品を何度も付け換え彼我比較させています。純正シートで走ることで、よりお客さん目線に立ち自社商品の特長をお客さんへ伝えられるように取り組んでいます。

社屋にはショールームを併設する

店舗へ来るお客さんは試乗もするけど、ほぼみなさん買う気で来られているんです。試乗・体験してもらい、お客さんには補足で説明するだけです。社員には「こんなに楽な営業はないよ」と言っています。私は過去に短い期間でしたが不動産営業をしていました。売るためには言葉を選んだり、言いづらいことはオブラートに包んで伝えるような業界でした。偽らず事実だけを話して完結する営業というのはもの凄く気が楽です。そのためには私自身もそうですが、会社のみんなが偽りのない商品を作る。それが肝心です。

見た目に終始するのはイヤだという話をしましたが、デザインの怖さというのも知っています。デザインに劣っていることで使ってもらえないということは、そこに存在しなかったのと同意になる。使ってもらえてこその商品ですからね。普段は見ためのこだわりについて言及しませんが、機能とデザインの両立にはいつも苦心しています。

24年には練馬にあった縫製部を現住所の朝霞へと集約しました。商品開発や日々の製作進行が一段と早くなりました。

24年に縫製部を朝霞へ集約。開発・製作が早くなった

13年に中山が取締役社長を辞任し、代表を引き継ぎました。入社したとき中山からは「3年で仕事を覚えて独立して出て行けよ」と言われたことを覚えています。私自身そう考えていましたが、商品の企画から開発・販売まで責任を担うようになり、今は代表としてパートを含め13人の社員を率いています。経営者になるために続けてきたわけではありません。好きな物作りを続けていくため、自分がやらなければならない役割があった。なので、成り行き上そうなったという感じです。私のような物の考え方、作り方をする人はひょっとしたら私の代が最後かもしれませんね。

周りの仲間からは「K&Hは町中華でいい」と言われたことがあります。目抜き通りに店を構えてキラキラ目立つ、という感じではないけれど、一定のお客さんがいて年月を経ても変わらず常にそこにある。そしていつものメニューを提供する。そういう会社なのかなと思っています。 (終わり)

◆K&H=埼玉県朝霞市上内間木381-2
▽℡048・456・3830
▽営業時間=10時~19時(平日)
▽定休日=日曜日、祝日、第1・3月曜日