ヤマハ発動機が1985年に発売したマウンテントレール「SEROW」(セロー)が、今年1月15日発売の「SEROW250 FINAL EDITION」(セロー250ファイナルエディション)をもって国内向けの生産を終了することになった。

セローは「二輪二足」をキーワードに足つき性の良さ、素直なハンドリング、扱いやすいエンジンが調和した乗りやすさが「マウンテントレール」という独自の世界観を生み、初心者から熟練のライダーまで幅広いユーザーに支持されている。

全国軽二輪販売2020年1月トップを記録

実際にセローは、銘柄別軽二輪車販売で常に上位をキープしている。二輪車新聞社調べによる2019年の銘柄別軽二輪車販売台数は、セローが5位の2423台で、オフロードタイプでは1位の人気車種である。また、2020年1月単月には421台と、トップを記録した。(※2020年1月の軽二輪・小型二輪の全国販売台数トップ40記事は、5月29日付け二輪車新聞に掲載)

数多くのユーザーから惜しまれつつファイナルモデルとなったのは、今後の法規制が厳しく、灯火器規制、ABS規制に加え排出ガス規制がさらに強化され、基本設計が古く対応が厳しい状況のためだ。

セローの開発に携わった関係者の松田克彦氏、橋本貴行氏、太田晴美氏の三氏に、開発の経緯や苦労などを聞くことができた(2回シリーズで掲載)。

松田克彦氏(MC事業本部 戦略統括部 商品戦略部 商品企画第1グループ主査)

画像: 松田克彦氏(MC事業本部 戦略統括部 商品戦略部 商品企画第1グループ主査)

85年に初代セローを投入した時のコンセプトは「マウンテントレール」だが、企画資料は「山登りエンデューロトレール」という表現をしていた。当時、モーターサイクル事業部長で担当重役であった森永國彦氏は、「セルスターター無しだとシングルヒットにしかならないぞ。セルが付いたら三塁打だ」と語ったそうだ。89年にセルスターターを装着して、一般性がかなり大きく広がったと思う。

その後、改良を重ねチューブレス、ディスクブレーキなどを採用したが、車重がほとんど増加していない。100前後の車重をキープして改良を続けてきている。なぜできたかというと、細部のブラケットなどの軽量化を毎回行っていた。一番大きな変化は、フレーム、エンジンから一新した05年の現行セローになると思う。その後、FI化、レギュレーション対応を経て現在に至っている。

当初の開発者によると、エンデューロではDT-1とかXT250のハードなモデルが多く、オンロードモデルではレーサーレプリカ全盛の中で、トライアル、オフロード、ストリートを万能にこなせるモデルとして開発された。豪華なサスペンションはいらない、普通に乗りやすいストローク量で構わない、という間口の広さを重視して作った車両だ。

大きなターニングポイントになった05年には、初代モデルのコンセプトのプライオリティー(優先順位)は何であったか確認した。一番目はトライアル、二番目がマウンテンロード、三番目がストリートでの使い勝手であった。05年からは、優先順位が若干変わって、ストリートがメイン、次がマウンテン、アウトレットと味付けを変更した。

私は82年にヤマハに入社したが、85年にはセローを担当していなかった。新入社員の時に、XT200の試乗メモが回覧されてきた。セロー225のベースとなった車両で、そのベースはXT125Xだ。試乗記を書いた人がモーターサイクル事業担当重役の森永氏で「とても軽くて扱いやすく、トレールランドで一日乗ったが非常によくできたバイクだ」とXT200を絶賛した。重役でもバイクに乗って感想を社員に回覧させるなんて、すごい会社に入ったなと思った。

ただ、森永氏に絶賛されたが、XT200は売れず、DT200Rのほうが売れた。XT200の外観を見てあまりドキドキしなかったし、マウンテントレールというコンセプトがよく分からなかった。コンセプトは否定形が多い。「爆走しない、大きなジャンプはしない、無理して走らない」。転びそうになったり、怖くなったら足をつけばいい。このコンセプトを社内でも理解できる人は殆どいなかった。最高出力、最高速度、レプリカというスペック至上主義が市場での大きなトレンドだった。

そこで、当時担当していた近藤巧氏が、関連部門のメンバーに試乗させる作戦を考えた。当然テストコースでDT-1とかYZを乗れば、最高のコースだ。セローのプロトタイプではDT-1などには敵わない。逆に森の中のコースではセローの良さが光り、午後にはセローの取り合いになったという。こうしてマウンテントレールというコンセプトの意味が、だんだん社内に広がっていった。(続く)

画像: ファイナルエディション(左)と初代モデル

ファイナルエディション(左)と初代モデル

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