「ブレーキテクニックは特に大事で、1回習ったら終わりではないのです。前回いい感じでブレーキができていますけど、もう少し早めのブレーキ入力ができ、レバーの握り込みを徐々に強くしていくと、さらに安全マージンが増え、緊張が減ってライディングが安全快適になりますよ」と返答した。受講生の走りを否定せず、希望につながる具体的なアドバイスこそ大事だ。
以前の私なら「まだまだブレーキ能力は不十分です。そのままだと非常に危険です」と答えていたが、これでは全否定に受け取られ、テンションが落ちるかもしれない。本音で言うのは親切なようで実は不親切になりかねない。お客様の安全度がアップしてこそ真の親切だ。
テンションが落ちて練習に来なくなって、危ないまま乗り続けるのは避けたい。簡単なことを反復練習してもらい、上手くなってずっと乗り続けていただきたい。それは販売店にとっても大きなメリットのはずだ。
こんなこともあった。「私はABCランクのどの位置なんですか?」という質問。過去のレッスンではそれぞれの項目にタイムや判定基準を設けて点数をつけ、ABCのランクを設定したことがある。
ランク付けを行うとランクアップを狙って頑張る人がいるのは事実。でも、それは「安全安心そして楽しい」につながるかというと、皮肉なことにライディングそのものよりも良い点数を取ることが目的になりやすく、他者と比較し、次第に満足度が低くなりかねない。とりあえずやってみて効果的な講習にはならないと判断した。
しかし、今はABCランク設定を再開しようと思う。すべてのライダーではなく、ランク付けを望む人を対象として。ランク付けは良い悪いではなく、要は当の本人のやる気が出るか否かだけ。タイムやランクは目標ではなく、楽しく走り続けるための手段としてタイム基準のランクを設定。ただし、目的と手段を履き違えないように常に確認することが大事。
やる気スイッチは2つ。希望を持ってもらうこと。そしてランクアップを狙うこと。やる気がある皆様の参考になれば幸いだ。
プロフィール
柏秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員の意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授や情報交換をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。