当地にはF1パワーユニット(PU)開発のための空力開発の風洞、テストベンチ、産業用CTスキャン装置、ドライバー・イン・ザ・ループ・シミュレーター、サクラ・ミッション・ルームなど機密エリアが多い設備・施設のため、一部撮影を制限されて取材が許された。
報道関係者を招き入れたのは、HRCの渡辺康治代表取締役社長、浅木泰昭常務取締役・四輪レース開発部長、若林慎也取締役・二輪レース部長、長井昌也取締役・企画管理部長をはじめ担当エンジニア。
渡辺社長はHRCについて「1982年9月に設立し、40周年を迎える。HRCは二輪の世界ではあらゆるカテゴリーにおいて記録的な勝利を積み重ねてきた。このような歴史を通してHRCは世界的に認知されるホンダの二輪レース部門に成長したと自負している」と振り返り、新生HRCについては「そのHRCに四輪が加わり、二輪、四輪を連携させることで相互に人、そして技術を高めていき、技術を蓄積、伝承することで、さらに強いHRCへと築いてまいりたい」と述べ、二輪、四輪の相互連携と運営の効率化を図り、ホンダのDNAであるモータースポーツを継承する基盤を築く考えを示した。なお、二輪レース部門は、引き続き埼玉県朝霞市に開発拠点を置いている。
F1支援を延長
また、ホンダはF1への参戦活動を21年で終了したが「レッドブル・グループからHRCに支援の要請があり、スクーデリア・アルファタウリとオラクル・レッドブル・レーシングの2チームへ22年もPUへの技術支援を行い、23年から25年の3シーズンの支援延長に合意した」ことを明らかにした。
HRCは、F1やスーパーGT、スーパーフォーミュラの支援、開発に取り組んでおり、その設備・施設の凄さを垣間見ることができた。
PU部品の不具合の原因解析をするのが、産業用CTスキャン。24時間・自動で稼働できる設備だ。白黒の透過像を360度すべての方向から撮像することが可能で、分解する前に不具合の特定や推定に活用できる。
また、サプライヤーから納入されたすべての部品の健全性確認を行い、レース部品に提供する前に良品、不具合品を見分けるスクリーニング作業をしている。
事例では、F1の温度センサー内部の半田不足による配線断線の初期不良がある。今年7月から250個撮像し、33個の不良を検出した。F1の圧力センサーでは内部にクラック発生していたのは年間約1000個のうち78個。市販車と違い軽量、コンパクトに製造するために不具合品が出る。
CTスキャンは、歴代のF1などヘリテイジプロジェクトの数十年前に製造された車体のサスアームの品質確認にも使用されている。
288km/h再現が可能
風洞設備は、レーシングカーの実走環境をシミュレーションする機能が備わっている。車両を乗せて車輪を回転させるスチール製のムービングベルトは、自動車用としては世界最大クラス。これに、直径8メートルの送風ファンから、強烈な風を車両前面に吹き出すアダプティブ・ウォール・システムは風速288km/hまで再現可能。公開時には最高速度200km/hの走行シーンを再現した。
レース状況解析
SMR(サクラ・ミッション・ルーム)は、世界中のサーキットとネットワーク回線で繋ぎ、リアルタイムで走行データを監視し、レース中は現場との戦略相談をするところで、レースで発生した課題を開発側へフィードバックする役割を果たしている。
サーキット走行中のドライバーから、生の情報や数百個のセンサーデータを無線でSMRに転送。車体挙動、レース状況(GPSデータ解析)、PU状態など刻々と変化する膨大な走行データをリアルタイムで解析し、すぐさま数千種のセッティングを数分で最適化判断して提案データや走行情報をレースの現場へ伝えている。
TV中継も同時に受信して、実際の映像も観ることができる。レース後は、課題を開発者へフィードバックする役割も果たしている。
レース前には、実車に搭載するPUをベンチでテストを繰り返す部署がある。HRCではリアル・ビークル・ベンチと呼ぶ。
事前にシャシー、ドライバーの過去の走行データや経験からPUのシミュレーション用の予想モデルを構築する。
サーキットシミュレーターで各サーキットの特性からドライバビリティー、エネルギーマネジメントを把握し、気温、湿度、気圧などから環境適合性を確認。ラップタイムを最速化するため、PUにダメージを与えず出力を最大限に絞り出す性能の最適化を行い、機能確認をする。設定データを払い出し、再び予想モデルを構築、繰り返してレース間隔の1~2週間で業務を完結していくという。