技術説明会では、二輪・パワープロダクツ事業本部二輪事業統括部事業企画部・大型モーターサイクルカテゴリーゼネラルマネージャーの坂本順一氏が出席。
ほか、ホンダE-クラッチの開発責任者として同事業本部二輪・パワープロダクツ開発生産統括部完成車開発部の小野惇也氏とE-クラッチの制御設計プロジェクトリーダーの同事業本部同生産統括部システム開発部の竜﨑達也氏、E-クラッチの駆動系研究プロジェクトリーダーの同事業本部同開発生産統括部完成車開発部の伊東飛鳥氏が出席した。
最初に坂本氏があいさつ。「オートマチックトランスミッション車とは異なるアプローチであり、操る楽しみの新たな提案。マニュアルトランスミッション(MT)の進化と位置づける技術である」と述べた。
ホンダE-クラッチは、ライダーのクラッチレバー操作を不要とし、クラッチコントロールを自動制御することで違和感のないスムーズなライディングを実現した電子制御技術。
動力の伝達機構は、従来のシングルクラッチ、MT機構と同じで、ギアのアップ/ダウンはシフト操作が必要だが、車速やエンジン回転、ギアポジションなど車体の状態やクイックシフターで行われる制御と組み合わせ、クラッチの切断と接続動作を電子制御で行う。変速もクイックシフター以上にスムーズで素早い変速を実現しているという。
これにより停止時のニュートラル出しや発進・停止時のエンジンストップなどの不安も払拭。1速にギアを入れて停止した時もクラッチレバーを握る操作は不要とし、アクセルやブレーキ操作、シフト操作や車体コントロールだけに集中でき、レバー操作による疲れも軽減することができる。
また、ライダーの要求に幅広く対応するため、任意のタイミングでライダーがクラッチレバー操作を行えば、MT車と同様に手動によるクラッチコントロールが行える。クラッチ操作によって駆動力や車体姿勢をコントロールしたい場合や高回転発進を行いたい場合など自分の意志通りに操作も可能で、低速時のUターンなど自分でクラッチの繋がりをコントロールしたい場合も有効。なお、レバー操作が終了すれば自動でクラッチ制御が復活する。
坂本氏に続いて登壇した小野氏は09年に入社して以来14年間、駆動系技術開発に携わってきて、ホンダE-クラッチのシステムにはホンダのロボティクス領域の開発メンバーを訪問し、エッセンスを用いたことを発表。「システムの構成やアクチェーターの制御にロボティクスの知見を用いたことで小型化と軽量化、簡素化を実現した。ここにいる竜﨑と伊東と共に、各々が自分のフィールドで技術を研鑽して知見を高めてきた」と語った。
ホンダE-クラッチのシステムは軽量・コンパクトで、従来のMT車のエンジン構造を大幅に変更することなく、クラッチ機構部にクラッチアクチェーターを搭載するものとなっている。
搭載レイアウトもMT車と比較した際、右側フットスペースへの影響を最小限にするとともに、完成車の重量変化を抑制し、最小限の部品変更と追加によるシステムで実現したという。
また、手動操作による強制介入を可能としていることについて小野氏は「自分の意思でやりたいクラッチ操作を行えるのが、MT車の魅力でもあり本質でもある」と強調した。
モーターは2個搭載。クラッチ制御はモーターコントロールユニットからモーターへ送られる電流値によってコントロールしている。電流値も前後輪の回転差やスロットル開度、エンジン回転数やギアポジション、シフトペダルの荷重、クラッチモーターリダクションギアのアングル信号などから算出し、車両の状態に対応したエンジン協調制御とクラッチ協調制御を組み合わせて算出している。これにより、発進や変速、停止など駆動力が変化する状況でその都度最適なクラッチコントロールを瞬間的に細かく行うことで、スムーズな発進、変速、停止を実現した。
システムはオン/オフの選択が可能。オンでは基本的にクラッチを自動で制御。クラッチレバーを握ると一時的にマニュアル状態に移行、操作が終了すれば復帰する。また、シフトペダルのペダル荷重はアップ/ダウンそれぞれ個別にハード・ミディアム・ソフトの3段階から設定できる。
最初にCB650RとCBR650Rに搭載されることも発表。同車種について坂本氏は「グローバルで年間3万5000台の販売実績があるモデル。エントリーやリターンユーザーも多い」とし、広く普及させるために相応しいモデルであると説明。車両価格は「クイックシフターが車両価格から+3万円、DCTが約+10万円なので、その中間ぐらいになるのでは」と続けた。
今後はFUNモーターサイクル領域に順次、ホンダE-クラッチを採用していくこともアナウンスされた。