
レーシングライダーの経験と経営者の視点を持つ中井氏
なかい・たかし/元レーシングライダーのキャリアを持ち、94・95年の鈴鹿サンデーロードレースGP80で2年連続王者に。2000棯の同サンデーロードレースSP400で年間チャンピオンを獲得。01年のもてぎオープン7時間耐久ロードレースにFCCTSRアクティブチームから出場し優勝を達成したが、翌年に出場の同レースで起きた事故で左足下腿部を失い義足に。その後、フルマラソンや鈴鹿4時間耐久レース等にも復帰し大手介護事業営業職を務めていた時に現チームオーナーの齋藤ジェームス文護氏と出会い、チームを結成。同時にディレクターに就任した。
チームが発足した22年を「ヒト・モノ・カネ・ウン」が揃った年だと振り返る中井氏。当時の参戦車はGSX-R1000R、そしてライダーはスズキを知り尽くした津田拓也選手、それに岡田秀之選手とマシンもライダーも勝てる体制で挑んだ。それを裏付けるように23年には、EWC「コカ・コーラ」鈴鹿8時間耐久ロードレース選手権に初参戦ながら4位入賞という快挙を成し遂げている。また、全日本ではST1000クラスで3位表彰台を獲得。上位のJSB1000クラスでもポールポジションを1回、3位表彰台3回という実績を残してきた。
しかし、順調に見えたレース活動に大きな影響を及ぼす発表があった。スズキが23年からモトGPとEWCへの参戦を終了したことである。メーカーがレース活動から撤退したことで車両やパーツ供給に影響が生じ、チームの活動に支障が出る恐れが出てきたからだ。
「今後の活動をどうしていくのか非常に悩みました。参戦クラスもSTクラスから上位のJSBにステップアップし、ライダーもスタッフもモチベーションを上げて、やるぞという時だったので……。特に24年は苦しかったですね」と振り返る。
チームは24年末にスズキ車での参戦終了を発表。同時期に鈴鹿サーキットで開催された全日本選手権の最終戦MFJグランプリでは、スズキブルーの特別色を施した車両で参戦。スズキとスズキファンへの感謝を込めたカラーリングだったという。
「戦闘力高い車両にライダー、そしてエンジニアとメカニックの強力なコンビ」

2月のチーム発表会ではライダーの浦本選手と参戦車のBMW・/M1000RRを同時に公開した
そして、25年2月に参戦車を輸入銘柄のBMW・M1000RRへ大きく変更。ライダーも16年に全日本のJ-GP2でチャンピオンを獲得、17年からはスペインのスーパーバイク選手権で戦い続け、8年ぶりに全日本へ復帰する浦本選手の起用を発表した。
迎えた今季の全日本、モビリティリゾートもてぎで行われた開幕戦では、浦本選手自身も日本を走るのは久しぶりというレースで3位表彰台を獲得した。この結果に中井氏は想定した範囲と胸を張る。「戦闘力のある車両に実力のあるライダーと我々エンジニア・メカニックという強力な組み合わせ。5位以内には入るだろうと予想していた」と自信を見せる。
続く第2戦のSUGOでは、レース1ではエンジントラブルでリタイヤとなったが、レース2では2位を獲得し、年間ランキングでも2位と、ここまで好調な滑り出しを見せている。ちなみに取材時はSUGO開催前のテスト日だったが、期間中にドイツ本国からエンジニアを呼び、さらに車両のセットアップを進めている最中であった。

全日本の第2戦SUGOのレース2では2位を獲得した(写真:オートレース宇部レーシングチーム)
勝利への投資は惜しまないという中井氏だが、経費についてはシビアだ。宿泊費などは極力減らし、サーキットへの移動もスタッフ全員1台の車両で動くという徹底ぶりだ。
「若い頃は新聞販売店を経営していましたし、その後は介護事業を経営していたので、10円単位で物事を動かすのが身についています。なので、勝つためには投資をするけどそれ以外は徹底的にケチる」と笑う。
ファンクラブも積極的に展開しており、同チームのオフィシャルパートナー企業のMikosea(株)(ミコシー)が運営するクラウドファンディングサイトで入会すると、会員限定の様々な特典を用意している。昨年も同じ取り組みで100人以上の支援とパートナー企業の協賛総額で5600万円以上の活動資金を募ることができたという。
今季はさらにサプライズ特典としてシークレットイベントへの参加権利やホスピタリティラウンジの特別オファー、会員限定のプレゼント企画なども用意している。
ラウンジも、今後は特別な空間を演出したい意図があるようで「異業種を招いて、F1のサロンのような交流会を開きたいですね」と語る。F1世界選手権では、予選や決勝日にパドックの上階にスポンサーを招いたホスピタリティブースを設けており、くつろいでレースが楽しめるようになっている。そうしたおもてなしを演出・提供していくことで、モーターサイクルスポーツ全体のプレゼンスも上げていきたいようだ。
「今季はどこのチームにも負けないので楽しみにしてください」と述べる中井氏。日本と世界への挑戦に続き、構想も大きく飛躍していきそうだ。