27年にわたる二輪車関連出版社勤務を経て2003年に独立。事業承継の専門家として1000件を超える経営相談、事業承継の実績を持つ筆者が語る「つなぐ」ことへの取り組み。過去の連載コラムを再掲載いたします。(編集部)

後継者塾の開講日に全員に尋ねることがある。「あなたはお父さんからいつ『継いでくれ』と言われましたか?」解答は驚くばかりで、なんと8割が「何も言われていない」!親子で長い間一緒に暮らしてきて仕事場も同じだから、いまさら他人行儀な話なんていらないでしょ、父の言い分はこうした思い込みが激しい。

でもねお父さん、今の時代は職業選択の自由があるし、日曜日に休めない、残業も遅くまである、そんな状態のお店の後を継いでくれるなんて、とてもラッキーなことなんですよ。

後継者から見れば、実家が二輪車販売店だからといって、あまり良いことがなかったという人が多いんです。普通の子供のように、日曜日に親と一緒に遊園地に行ったり、夏休みに海に連れて行ってもらうような楽しい記憶がないと言います。

お母さんが会社で働いていれば、さらに寂しい思いをしているかもしれません。

そうしたご自分の背中を見て育ってきた子供が、会社に入ってくれるということは〝人生を賭けるに値する仕事として、誇りをもって選択してくれたこと〟になりませんか?

でも、やっと仕事にも慣れてきて、少しは経営を任せていきたいと思う頃になると、親子が激しくぶつかり合うようになります。他人が仲裁に入らないと拳骨が出てくるような激しいぶつかり合いも目にしました。

決して互いの主張がぶつかるのではありません。それ以前の、はるか昔からの親子関係の流れがぶつかり合うのです。

子供はどこかのタイミングで親の背中を乗り越えていかなければなりませんが、その時をキチンと消化していない場合、いつも親の圧力と保護の囲いの中にいる気分が抜けないのです。

親もまた、子供という見方を捨てる時が来ます。一人前の人間として認め、ひとりの人格を尊重しなければなりません。親子という感情のもつれを呼び込まないように、ビジネスライクに他人行儀に話すことも重要なのです。

二輪車販売店の場合は①会議がない②数字が共有されていない③いきなり現場仕事④夢やロマンが語られない──この情報不足のままで経営が成り立っていること自体が不思議に思えます。親子といえども現社長と次の社長として、具体的な経営数字を前にして、毎月1回、取締役会(経営会議)を開きましょう。そこでは具体的な運営方法やトラブルの報告を行い、今後の会社の進むべき道を話しましょう。

そして、結論が出たら、議事録を作り参加者全員がサインします。とりわけ従業員の処遇や、大きなお金が動く時には、互いの意見をすり合わせましょう。親子は似ているので、うまく回り出すと、阿吽の呼吸で会社運営がスムーズに動き出すのです。

お父さんは老人力が付き忘却するのは仕方ないことですが、言った言わないで喧嘩をするのはやめたいものですね。

■教訓

1.会社では親子をやめよう。

2.二人の経営者として話し会おう。

3.議事録とサインで互いを守ろう。

〈筆者紹介〉

内藤博/事業承継センターCEO

1952年横浜生まれ。27年にわたる二輪車関連出版社勤務を経て2003年に独立。事業承継の専門家として1000件を超える経営相談、事業承継の実績を持つ。自身がベンチャー企業取締役として、成長発展から縮小リストラまで経験した強みを生かし、単なる承継問題にとどまらず、時には家族会議への参加や親子間の仲介も行う。著書「これから事業承継に取り組むためのABC」他。

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