元気バリバリで頑張ってきた創業社長にも衰えを感じる時がきます。もの忘れが激しくなってなじみ客の名前を思い出せない。大切な登録書類を無くした。約束した時間を間違える…。

こうしたサインは、肉体が今までのようには無理が効きませんよと言っているのです。その対策は簡単です。体に無理をかけないような仕事の進め方に切り替えることです。歳をとると早朝は少しも苦になりませんが、ランチの後の午後の時間は睡魔がやってきます。それに視力が衰えるので小さな文字は見えないし、手先が震えてきてネジを落としたり。昔の自分と比べると情けない限りですね。

しかし、逆に冴えわたることがあります。危険に対するリスク感覚、この先の危なさが見えてきます。デジャヴ(既視感)ですか。昔同じようなことがあったなとか、これは変だぞと気持ちの中に警鐘が鳴るのです。

しかし、それをそのまま言ってしまえば後継者の邪魔をすることになります。「それを言っちゃーおしまいよ」、親父はいつも昔の成功談を繰り返す。もう耳にタコだよ。でも疎まれるのが分かっているから黙って見ていることにします。

では、社長から会長になった後は何を発言し、どこに目をつむればよいのでしょうか?

後ろからエネルギーを送るのが会長の役割と言われます。最も注意が必要なのは過去の成功談をひけらかすこと。これはダメです。自分がうまくいった時のことはよく覚えていますが、失敗した時や間違った時のことは都合よく忘れています。自慢話を喜んで聞いてくれるのは売り込みに来た営業マンだけだと思ってください。うまくいったのは時代が良かっただけじゃないかと後継者に思われていること間違いなしですよ!次に控えるのは「昔やったけどダメだった」と言って、後継者の挑戦を封じてしまうことです。

失敗体験はめったに語らないので、後継者にとって分からないことだらけです。難しいのは挑戦者にも分かっています。だからこそ慎重に事を進めようとして意見を求めているのです。下手に出ているのをいいことに、自慢ぶって過去の経験を語っても、何も生まれないのです。

その理由は時代が違う、やる人も違う、品物も環境も、空気すら異なるのです。後継者は自分がやれば成功すると思っているかもしれません。やらせてあげましょう。やる前から決まっていることなど何もありません。結局のところ譲る側としては、知らず知らずのうちに後継者の挑戦を邪魔していることになります。

さらに、引退が近づくと無借金経営を目指す人が多く、それを美談のように持ち上げて、経営者としての美徳、実力の証ととらえる人もいます。自分で借りた金を自分で返すのですから、単なる自己満足以外の何物でもありません。

明日、廃業するのならいざ知らず、後継者に未来を託すなら、そのために必要な長期的な投資や開発、教育を怠ってはいけません。

お金は回していけば良いのです。使うべきところへ勇気をもって生きるお金を投資しましょう。

■教訓

1.借金返済は経営目標ではありません。

2.未来への投資こそ経営者の勇気です。

3.技術移転のできる若手社員は将来の財産です。

〈筆者紹介〉

内藤博/事業承継センターCEO

1952年横浜生まれ。27年にわたる二輪車関連出版社勤務を経て2003年に独立。事業承継の専門家として1000件を超える経営相談、事業承継の実績を持つ。自身がベンチャー企業取締役として、成長発展から縮小リストラまで経験した強みを生かし、単なる承継問題にとどまらず、時には家族会議への参加や親子間の仲介も行う。著書「これから事業承継に取り組むためのABC」他。

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