ユーザー負担軽減に尽力
3000人を集めた台北アリーナの檀上に立ったキムコのコウ会長は、自社のブランドスピリットである「Win My Heart」の3本の柱「差別化」「プライド」「持続性」を説明し、その結果「キムコが優れた企業となり、尊敬されるグローバルなブランドにまで成長した」と胸を張った。
キムコの台湾での支持は圧倒的だ。スクーター市場において、18年連続新車販売台数1位を誇り、年間販売台数36・8万台、市場シェアは40%を超える。
そのキムコが昨年本国で発表したフラッグシップモデル「AK550」に続き今回、若いユーザーをターゲットとしたニューメニー110EVと普及を狙ったナイス100EVの2車種のEVスクーターを発表した。会場は、海外アーティストのコンサートなどのビッグイベントが開催される巨大な台北アリーナで、3000人を超えるディーラーやサプライヤー関係などの招待客と各国のメディアが集まった。
本国での人気と積み重ねてきた技術力を背景に、コウ会長は二輪車市場の変化への対応について語る。「今、個人輸送は最も重要な変革期にある。キムコの長年に及ぶ〝Win My Heart〟の精神と企業としての社会的責任への献身を通じて、この歴史の転換点にインパクトを与えたい」「世界中の消費者の心を掴む乗り物を創造することがキムコの長年のミッションであり、アイオネックスで世界の電動二輪車をリードし、市場を変革する」と語る会長は、次の時代に向け、EVスクーターを普及させるには、インフラ整備とともに製品そのものの先進性と消費者に負担をかけないサービスが必要だと説く。
その充電インフラ整備については、「早急にアイオネックス急速充電ステーションを1500カ所設置完了させ、2019年末までには2000カ所に増やす。さらに2年間で共用の電源スポットを3万カ所以上整備し、ライダーの航続距離への不安を取り除く」と計画を語るとともに、「急速充電ステーションで交換可能なバッテリー(注:1本で約35km走行可能。5本まで搭載可能)のレンタル料金は1回40台湾ドル(同約146円)に抑えた」と利便性の追求だけでなく、低コストのプランをユーザーに提供すると述べた。ちなみに、車両には標準でコアバッテリーが装備されていて、それだけで約25km走行可能という。
さらに「バッテリーは5kgと軽量化したため、夜間自宅内に手軽に持ち運び、毎朝フル充電したバッテリーを持って出発できる。住宅建物の公共駐車場にエネルギー・ステーションを設置する計画もある」と、バッテリーを充電するスタイルや習慣がスマートフォン普及の結果変化したことを指摘。他社の電動二輪車と異なる発想をベースとして、オリジナリティ溢れる同社らしい優れた製品が開発されたと強調した。
また、過去にない高レベルの保証とサービスを提供するとして「バッテリーには5年保証、モーターには10年保証を付ける。走行距離当たりのコストが高くならないよう、個人レンタル・バッテリーには生涯保証を付けると同時に、走行距離1000kmの月間レンタル料はわずか299台湾ドル(同約1090円)とする」と発表。ユーザー負担を減らし、まずはEVスクーターを台湾に普及させることが最重要課題だとした。
続く王定義社長のあいさつでは、2車種の販売価格が発表され、ニューメニー110EVの価格が4万2800台湾ドル(同約15万5900円)、ナイス100EVに至っては2万9800台湾ドル(同約10万8500円)とアナウンスされると、予想以上の低価格だったことから、会場から大きなどよめきが起こった。最後に王社長は「グリーン・ムーブメントのパイオニアになるつもりだ」と、EVスクーターに賭ける意気込みを示しローンチは幕を閉じた。
19年には台湾でのシェア50%を目指すキムコは、今回ライバルとは違う方向性の製品をインフラ整備の具体策と合わせて示した。四輪車同様、二輪車においてもEV化の波が世界レベルで押し寄せている中にあって、政府の後押しもあってキムコは台湾での普及面でアドバンテージを持ったと言える。しかし、最大の目標であり、喫緊なステージは「今後3年間で20カ国、世界10都市で展開」(コウ会長)と宣言した通り、海外での普及だ。
現時点で10都市での話が進んでいるとのことだが、日本法人であるキムコジャパンの伊庭武臣広報室長は、「すでに数カ月前から日本の企業・団体が興味を示し、具体的なアプローチがある。日本国内での導入を前向きに検討している」と話す。日本でのEVバイク普及は、すでにカウントダウン状態に入っていると言えそうだ。
※本文中の円換算額は7月11日時点のものです。
オープンプラットフォームとして技術情報を公開
発表会翌日には、新型電動二輪車およびアイオネックスの今後の展開について、アレン・コウ会長が日本のメディアの取材に応じた。質疑応答概要は以下の通り。
──長年EVの開発をしてきたわけだが、今回EVスクーターを発表するに至った最大の理由は。
「我々は正しいビジネスモデルを見つけた。スマートフォンの普及により、消費者が自宅で毎日バッテリーをチャージする習慣を持ったことが大きい。昔は航続距離を最重視していたが、今は1日分のバッテリーがあればよく、それによって各種コストを抑えることが出来る。今、アイオネックスの充電ステーションを増やすことは簡単だ。他社のような〝シェア〟の考えでなく、あくまでも二輪車を個人で所有してもらう前提で考えてきた」
──脱着式のバッテリーは、なぜレンタル方式にしたのか。
「これまでバッテリーの品質が安定せず、2~3年で買い替える必要があったが、そもそもバッテリーは高い。消費者からはなぜそんなに高価なバッテリーを買わされるのかという声があった。レンタル方式にすることで、ユーザーはランニングコストがわかりやすくなり、バッテリー交換の追加コストの心配もしなくて済む。ユーザーが永久に安価な保守サービスを受けられることが大切だ」
──バッテリーは自社生産(組立)とのことだが、サプライヤーおよび生産規模は。
「LGエレクトロニクス、パナソニック、サムスン電子の3社からパーツ供給を受け、自社で生産している。キムコが作ったバッテリー完成品として提供することによって、ユーザーから信頼してもらえる。来年6万台のEVスクーターを販売予定だ。それに伴いたぶん10万個のバッテリーが生産されるだろう」
──台湾政府からの補助金の規模は。
「EVバイクへの補助金額は、地域によって異なる。台湾政府は電動二輪車への買い替えを推奨している。充電ステーション設置等のインフラ整備に対しても、自治体ではなく中央政府からの補助金が出るが、開発費やバイクそのものには出ない。補助金の支給総額は決まっている。普及してしまったら補助金は出ないということだ」
──今後のアイオネックスバイクのラインアップ拡充計画は。
「今後3年間であと8機種を発表する。50馬力を超える電動スクーターの計画もある。ただし、現在リリースしているバッテリーは125cc相応までのコミューター用なので、大容量バッテリーが必要となる。オフロードやロードスポーツモデルの可能性もある。個人的には超大型EVバイクに乗ってみたい」
──新しい乗り物だが、従来までの(ガソリン燃料の)スクーターと同一のオーソドックスデザインにした理由は。
「今回発売するEVスクーターは、まずはマスマーケットをメインターゲットとしている。数多くの台数を販売することで、多くの充電ステーションを設置することが出来るようになる。EV化という面で消費者を啓発していきたい。それには実用向けの電動二輪車を作る必要があった」
──「アイオネックスを今後3年間で20カ国、世界の10都市超で展開」という計画の進捗状況は。
「20カ国について、具体的にはまだ決まっていないが、10都市についてはBtoBの産業用・物流配送用途での話が進んでいる。地域はヨーロッパ、北米、アジアとなる。キムコはバイク、バッテリー、充電ステーションとトータルでサービスを提供できるのが強みだ。我々はバッテリーの仕様についてオープンプラットフォームとして、技術情報の公開も行う。提携を希望する国や企業に対して常にオープンだ」
──日本でアイオネックスは普及すると思うか
「日本での普及が難しいとは思わない。ハイスピードでのバッテリーチャージ、プラグイン方式での自宅充電、交換ステーションの設置には、ユーザーメリットが充分ある」
紙面掲載日:2018年7月13日