二輪車業界の事情に詳しくなかった頃、ある人から「バイク販売業界では、ナメクジ現象とよく言われるが、何の事か知っているか」と問われたことがあった。知る由もないので素直に「知りません」と答えた。

すると、その人は私に2000年に業界の識者やジャーナリストが書いた記事や文章を集めた1枚の紙を頂けた。それが今も私の手元にある。それによれば、厳しい業界全体の市場規模の一貫連続凋落する状況の中で、価格に依存して骨身を削って生存を図っていこうとする販売店や業界の姿が克明に的を得て表現されている。

曰く「問題なのは価格破壊、言葉は格好よさそうだが、会話や人情の破壊にまでつながり、業界不振を助長している」。また曰く「安売りには安売りというが、世間並みの収益を上げることができないようでは、世間並みの人材を求めることもできない」 

そうだろう、私の恩師水口健次先生は「価格で奪った客は価格で奪い返される」と口を酸っぱくして教えられていた。

「正に、オートバイ販売で利益の出せない変な商売との自嘲が聞かれる」ともある。「今の売り方を助長してきたのは、卸のリベート政策も要因である」。

それ見ろ! だから私は数量インセンティブマージン(≒リベート)を廃止してきた。

乱売市場の売り方は「新車価格を大幅値引きし、諸費用を上げる構図である」。そして「ユーザー不在の売り方、良い店がバカを見る業界は衰退してゆく運命にある」。

この予想通り、業界は回復の兆しが見えない。「売り方色々、だがCS第一を重視し、ユーザーから支持されている店が確実に勝ち抜いているのが現下の販売前線である」などなどである。

再度書かせて頂くが、これらは私が話したのでも書いたのでもない。業界通のジャーナリストや関連の識者たちが2000年に書かれたことだ。最近、この安値乱売はどうなっているのだろう。

やはり「価値ある商品」を「価格で売らずに顧客の心理的価値で売っていく」姿勢で取り組まなければダメではないか。

さて最後になったが「ナメクジ」である。当時の販売状況は、安売り乱売が続き、赤字赤字で販売店も業界も溶けてしまいそうだから「ナメクジ現象」と表現しているのだという。これでは「価値売り」にはあまりにも距離がありすぎる。

※2016年7月29日付け「一字千金」掲載

プロフィール

奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。

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