二輪車業に限らずどんな業種でも大なり小なりこれは変わらない。だが、これを読んでくれる方にはそうならないでほしい。予算が潤沢でも、そうでなくても周りに協働できる仲間がいつもいてくれる。そんな人が二輪車業界の主役として光り続けてほしい、という思いでこれからいろいろと書き綴ってみたい。
今の社長に惚れたい
40年以上にわたり新聞、専門誌等にバイク試乗記事を書き、LPやCD製作、イベントMCやゲスト出演、時に講演もやってきた。砂漠も大好きで国内外150万以上を走った経験を活かして現在はライディングスクールを運営している。「より安全で楽しく快適なバイクの基礎テクニック」を伝えるべく需要低迷打開の一助になればとの思いで続けている。
そんな私の思いとは何か。全国各地に幾多ある二輪車販売店の社長。そう、あなた自身の魅力アップだ。
店舗規模は大小いろいろあっても、社長は社長。おこがましいようだけど、社長たるもの何かの魅力があってほしいと本気で思う。それは、「バイクなんてどこで買っても同じさ!」などと誰にも言わせたくないからだ。
コンビニでの買い物と二輪車ではワケが違う。お客様が社長に惚れてバイクを買うのが理想。例えば社長の過去の栄光もいいけどお客様は今の社長に惚れたいのだ。「こうする」「こうなる」と進むべき方向、主義主張を持ってお客様に示す、まさに旗幟鮮明な心意気こそが社長としてかけ値なしに素敵ではないか。
寛容性のある旗幟鮮明
昨今の大学生。信じがたい現実だが、自分の考えや行動はできるだけ周囲に悟られたくない匿名性を志向する。例えば「はい、質問がある人」と手を挙げさせると、手を挙げて質問した学生はあとで他の学生からとやかく言われる。だから誰もが手を挙げないで後になってメールで質問が寄せられる。これは現在のある大学教授から聴いた本当の話だ。
これと真逆な社長であってほしい。青臭いとか窮屈などと捉えられやすいかもしれないが、今こそ必要なことは主義主張が明確なこと。他に押し付けることではなく、だが他を否定せず、けっして排他的にならない。寛容性のある旗幟鮮明。
もともと社長が誰か、キーマンなんて関係ない、というのもひとつの見識。売れてなんぼ!の人がいるのもわかるし、業界のコンビニ的存在であってもいい。実はここで言う社長は、店長でも、他のスタッフでも、キーマンが一店舗に一人いるべき、という意味で捉えていただきたい。
ウイズコロナの現在、リモートワークが増えそうな中で、社長の顔がますます見えにくくなるかもしれない。二輪車販売店のあり方として今こそ社長が見えることが大切。そのために、まずはお客様に惚れられる前に社員やスタッフに惚れられる人が理想ではないか。
社長ってそもそも叩き上げか、2代目あるいは3代目で相応に苦労してきただろう。整備にしてもセールスにしても紆余曲折で相応に磨かれた自分がいる。そんな社長から見れば若手は頼りない。しかし、社長になって社長業に追われて、メカニックをした時の苦労やセールスでの苦労、つまりその時の気持ちから遠ざかっていないか。
若い時は懸命で将来への時間があるにしても、先が見えないモヤモヤがある。社長になるとモヤモヤは少し消えるけど、残された時間は若い人ほど多くない。
整備作業に誇りを
社長は例えばメカニックに何を伝えるか。整備の現場は、慣れていると作業は早い。早いけれど本当に効率が良いか。さらに信頼を勝ち取れるか。社長の仕事はメカニックにプレッシャーをかけることでもないし、整備時間短縮を押し付けることでもない。気持ちよく作業ができる環境とは何かを一緒に見つけることではないか。
実際に、ある店舗の整備現場を見ると照明が暗い。これだけで作業効率が悪そうだが、ずっとそれでやってきた社長はそれを普通で当然なことと思う。若手のメカもそれに従うしかなく、疑問もないまま黙々と作業を続けているかもしれない。
作業場の改善にコストをかける余裕があればやれるではなく、コストをかけないとか低予算で改善ができるかもしれない。順風満帆の会社であっても、そうでなくても作業がやりやすい、あるいは作業場が綺麗であれば、それこそがお客様へのサービスになるのではないか。
プロフィール
柏秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員の意識・運転技術改善に役立つノウハウの伝授や情報交換をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。