「旗幟鮮明vol.15」では、お客様に覚えてもらいたい「4大数値」がテーマだった。
①タイヤ空気圧
②燃料残量警告灯点灯からの走行可能距離
③交差点が全事故の70%
④胸部強打死亡率が頭部損傷とほぼ同じ約40%。

この4つは具体的な数値としてお客様に伝えやすいのだが、今回の「安全安心」を伝えるのは数字のないテーマだけに実に難しい。

軽量マフラーなどの「モノ」なら目に見えるが、安全安心は目に見えない。ワザ磨きは練習努力が報われる保証もない。その結果、大半のビギナーやリターンライダーは安全安心を遠くで眺めて後回しにしやすい。食べ方を習わなくてもご飯なら食べられる、という感覚だ。

過去の販売店スタッフ対象のレッスンで、こんなことがあった。スロットルを開けたまま、クラッチを使わずリアブレーキで速度を落としながらUターンすれば、エンストのリスクはないしこんなに簡単でしょ!と模範実技を見せた。機種によって対応できないものもあるが、最新の燃料噴射式エンジンでは、この方法の難易度は低くなっている。

短時間でスタッフ全員がこの方法のUターンができるようになったが、その反応が面白かった。「できたけど、何か?」という感じで待機している。

実際の現場では簡単にできないお客様がいるのが普通。そんな時にどうすれば良いかという発展系の質問に及んでほしかった。

指示どおりできるのは大事だが、常に答えはひとつではない。例えば1000cc以上のビッグツインなら?とか、この方法では怖くてできないビビリの方に、他のどのようなアプローチが良いのか、という多様性のあるUターン講習に発展させたい。

Uターンひとつでも、半クラ・ノークラ・フルクラッチの3パターンのほか、最初からフルステア・曲率を徐々に小さくする旋回・定常円・着座の両足出し・着座のステップ足載せ・スタンディングなど、様々なレシピと平面・斜面・未舗装路を想定してスキル別、バイク別にライディングの奥行きを実感してもらう。そうでないと、実際の交通の現場や初心者、そして高度な知識と技術を持つお客様に対して、柔軟な対応ができないからだ。

バイクのテクニックは1+1=2という具合いにサクサク進むものではなく、じっくりと安全安心を学ぶのが王道。そのために二輪車の販売側は、死角のない受け入れ態勢を作っておくべき。低速系ひとつとっても「Uターンができる」だけでは今の時代は不十分なのだ。

プロフィール

柏秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員の意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授や情報交換をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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