米国のツールメーカー「MAC TOOLS」(マックツールズ)。日本での同社商品の輸入・販売元はマックメカニクスツールズ(本社・神奈川県横浜市)で、CEOの清水正喜氏は別事業の海外営業のため、しばらく同社の経営から離れていたという。だが、期せずしてコロナ禍直前で再び経営に携わることになり、一時は業績への影響を懸念したものの一転して急回復。コロナ禍を経た今、国内の二輪・四輪市場やユーザーであるメカニックについて語る。

マックメカニクスツールズ代表取締役CEO 清水正喜氏

画像: インタビューに応じる清水社長

インタビューに応じる清水社長

「コロナ禍直後は〝大変なことになった……〟と思いましたが、この3年を振り返ると売上げは伸長しました。四輪向けもそうですが、二輪向けが一番堅調だったのです」と述べる清水氏は、1989年に仏製潤滑油「MOTUL(モチュール)」の輸入・販売を行う〝テクノイル・ジャポン〟を立ち上げ、2010年には、当時スタンレーワークスジャパンが経営していたマックメカニクスツールズの株式を取得し、グループ会社として同社を運営していた。

その後は同社の経営から離れて、モチュール銘柄をアジア・パシフィック地域へ展開するべく、しばらくシンガポールに拠点を構え同銘柄の普及に尽力していたという。その後19年12月に再びマックメカニクスツールズの経営者として登板するのだが、翌年からはコロナ禍となった。しかし、この3年で業績はV字回復だったと振り返る。

「四輪と違い、二輪は自分で愛車のメンテナンスを手がける人も多く、自身でハンド(整備用)ツールを揃えるお客様が多いのです。また、コロナ禍で在宅勤務が増えたことで趣味性の高い二輪車へ時間と費用を費やす人が増えました。さらに、政府から給付金が支給されたこともあり、売上げが伸びたのです」と分析する。

同社はマックツールズ商品の販売やサポートを移動販売車で行う〝バンセリング〟を手がけており、日本全国をエリアごとにバンセリングのオーナーを配置して、担当地域の二輪・四輪の整備事業者へ巡回販売を行っている。インターネットで同社の商品を購入できるECサイトも立ち上げているが、バンセリングは手堅いビジネスモデルだという。

「マックツールズは米国に本社を置き、世界市場で約2兆5000億円の売上げを誇るツールメーカーの『スタンレー ブラック&デッカー』(※)が展開する最高級のハンドツールのブランドです。ちなみにハンドツールの売上高では、米国でこそ競合他社のハンドツールメーカーに1位の座を譲りますが、グローバルだとスタンレー ブラック&デッカーの方が7倍以上の差を付けているんです」

※スタンレー ブラック&デッカー社はインフラや建築・建設用ツールの『DEWALT』や『CRAFTSMAN』も傘下にしており、扱う商材も幅広い。

「その中でマックツールズは、プロのメカニックだけにバンセリングという特殊な販売形態で展開するため、米国と英国と日本の3カ国だけで行われているんです。でも、このバンセリングのシステムはとても堅実なビジネスですよ。現代では至る所でネット販売の優位が聞かれますが、プロのメカニックは自分の道具を触って確かめないと安心されませんからね」と強調する。

バンセリングに加え、さらに代理店オーナーが独自に立ち上げた実店舗の「MACショップ」は全国に8カ所存在する。プロのメカニックが製品の感触を自分で確かめながら、身近に購入できる環境が整っているのである。また、安心のアフターサービスを提供し、消耗品以外のハンドツールへの『生涯保証』も提供している。

グローバルでのハンドツール市場は堅調で、国内では直販やECの販売体制が整っていることもあり、コロナ禍が落ち着いた今もビジネスは順風満帆かと思いきや、国内市場そのものはシビアに分析している。

「今年は四輪の中古車市場を見ても落ち着きを取り戻してきたと思いますし、そもそも日本の市場は以前、縮小しています」と言及する。

日本では、二輪車は1035万台の保有台数があり(※本紙データ。原付一種~小型二輪含む。23年3月末現在)、四輪では7869万台の保有台数(出典:自動車検査登録情報協会23年5月末現在)を示しているが、いずれも年々台数は減っている。

「メカニックサポートは今後、二輪メーカーとも一緒に進める」

一方、ハンドツールのユーザーであるメカニックについても思うところがあるという。
「米国では、メカニック(整備士)はフリーランスでいわゆる個人事業主なんです。例えば3カ月はゼネラルモータースのディーラーで勤務して、隣町のフォードのディーラーで良いオファーが出たから翌月はそこで働くとか、そういう専門職なんです」

「日本だとメカニックはディーラーや整備工場の社員なのですが、一人一人が生産性を常に上げようと努力しています。日本人の自慢できる民族特性ですよね。プロとしてプライドを持って仕事をされています。なので我々は、彼らのモチベーションやロイヤリティを引き上げることをしないといけません」と訴える。

現在、メカニックは高齢化が進み、日本全国の自動車整備事業者を主な会員とする「日本自動車整備振興会連合会」の直近のデータによれば、整備専業者の平均年齢は50.3歳で、平均年収は387.5万円となっている(※令和5年1月発刊『自動車特定整備事業実態調査委結果の概要について』より)。一方、国税庁がまとめた民間給与実態統計調査によれば、同年代の製造業と比較すると4割近く給与が低いのが現状だ(※令和4年9月発表・同統計調査「業種別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額/製造業とサービス業」より比較)。

清水氏はそうした現状を憂えており、日産自動車大学校の学生と日産自動車販売会社のメカニックがレーシングチームの一員として参戦する人財育成プロジェクトである「日産メカニックチャレンジ」を2015年からサポートしている。また、彼らが使うハンドツールを提供、使い方など実践的な教授も行っているという。

「今、自動車メーカーも販売会社もアフターサービスで利益を生み出すビジネスモデルに転換しようとしています。特に自動車メーカーはその方向に力を注ぎ込んでいます。給料もおそらくあと数年で営業職よりも、メカニックの人たちが高くなる時代が到来するかもしれません。メカニックの給料はもっと高くなってほしいし、高くなって当たり前だと思います」と述べる。

また、サポートを始めたことで、経験を積んだ人たちの成長ぶりを聞かされたという。
「学校側の校長先生から『対面で話すのもおぼつかなった子が、プロジェクトから帰ってきた後にハキハキと明瞭に自分の考えを人前で発表するまでになったんです』と報告がありました。そういうお話を聞くと、やっていてよかったと思いますね」と破顔する。

直近では、四輪メーカー・スバルのレーシングチームであるSTI(スバルテクニカインターナショナル)にも同様のプロジェクトを進めており、5月に独で開催された24時間耐久レースに販売店のメカニックを派遣している。また、マックツールズでは現在、二輪メーカーと一緒に進めることで話が進んでいるという。

画像: 独の24時間レースに参戦したSTIにメカニックを派遣した東京スバルへ感謝状と認定証を贈呈。同社の本社で贈呈式が行われ各支店のサービス課長も同席した(写真提供:マックメカニクスツールズ)

独の24時間レースに参戦したSTIにメカニックを派遣した東京スバルへ感謝状と認定証を贈呈。同社の本社で贈呈式が行われ各支店のサービス課長も同席した(写真提供:マックメカニクスツールズ)

「バンセリングは楽しんで仕事をするビジネス」

メカニックをサポートするプログラムは進行中だが、市場が縮小している中で同社のバンセリングシステムは今後どうなるのか。

「弊社のバンセリングは全国で260のエリアで、130社の代理店オーナーがおり、その人たちの事業を継続して支援していかなければなりません。もっと分かりやすく言えば、代理店オーナーの皆さんが幸せになってもらわなければなりません。空白エリアの解消には、引き続き取り組んでいきます。また、代理店オーナーの募集は行っていますが、安易に増やすことはしておりません。それ以上にバンオーナーが一台一台きっちり利益を出していくことが大事です」と強調する。

直近では、二輪車メーカーを定年退職してバンセリングオーナーになるべく、研修を受けている最中の人がいる。当人は勤務中にバンオーナーと接する機会が多々あり、そこで興味を持って応募してきたという。メカニック出身の人も多いのだとか。

「そもそも趣味性の高い仕事をしていただくわけですから、仕事をしていて楽しい気持ちになってもらわないともったいないですよね。ただ数字を追いかけていくよりは、やはり一人一人が楽しみながら進んでいけないと、良い仕事はできません。一番大切なのはそれぞれのビジネスが利益を出して、代理店オーナーの皆さんが楽しく人生をエンジョイできるようにすることだと考えています」と述べる。

画像: 2019年に「マン島TTレース」のTT・Zeroクラスに挑んだ電動二輪車の「神電 八」。当時、同社も協賛企業としてサポートした

2019年に「マン島TTレース」のTT・Zeroクラスに挑んだ電動二輪車の「神電 八」。当時、同社も協賛企業としてサポートした

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