──本日は藤崎慎一郎社長にGCVの考え方を伺います。そして二輪車事業への影響についても伺うため、オークネット・モーターサイクル(オークネットMC)の福田博介社長、城戸洋司ゼネラルマネージャーにもご参加いただきました。ではまず、GCVを打ち出す動機、きっかけは何であったのでしょう。
藤崎社長(以下敬称略) 「1985年に中古車TVオークションを開始して以来、我々はB to Bのリユースビジネスマッチングを手掛けてきました。中古自動車、中古バイク、中古医療機器、ブランド品や中古デジタル機器などのリユース品を手掛ける事業者様に『高く売れる』『安く買える』という経済価値を提供するということですね。しかしリユースビジネスには『もったいない』『モノを大切に使う』という価値観が関わっており、どこか『我々は世の中に対して良いことをしている』という意識を事業者様の多くはお持ちだと思うのです。声高にそれを言う動きは従来なかったのですが、ここへきてやはりその価値を数値化すべきではないかと」
──そうした議論が出たのは、いつ頃のことでしょうか。
藤崎「4年前の会議でした。福田(オークネットMC社長)も参加する役員合宿の場で話したと記憶しています。2010年代から環境負荷、社会負担を減らす必要性が言われるようになりました。経済をしっかり回す一方で、利益の一部を投じるなどして社会負担を減らす活動に取り組む企業も増えましたよね」
──オークネットが05年から森づくり活動を継続しているように。
藤崎「そうですね。そして、その機運がさらに高まったのが20年当時。SDGsが浸透してきた頃といえます。『モノを作って売って終わりというビジネスでは不充分では』と。そんな意識が広がるなか、我々は事業そのものが経済活動であると同時に、サステナブルな世の中に貢献できる活動でもあるのだから、それを価値としてアピールしようと。金額で示すべきだと考えたのです」
──事業を通じて社会課題を解決するという、CSV経営の考え方と通じますね。
藤崎「そのものと言っていいでしょう。GCVという指標は、まさに事業活動により経済を循環させた価値と、環境面で生じた機会とリスクを金額で表しています」
「まず事業活動により経済を循環させた規模を見ると、23年は中古自動車・中古バイクを取り扱うモビリティ&エネルギーセグメントにおける取扱高の総額が4502憶円。ブランド品や中古デジタル機器を取り扱うライフスタイルプロダクツセグメントでは、981億円。その他126億円。合わせて5609億円となります」
──経済面の数字は全商品の流通額を合わせたものなのですね。
藤崎「そうです。そして環境面ではまず、ひとつひとつが流通した時に削減できているCO2など温室効果ガス排出量を算出します。例えば中古バイク●台の売買により《モノを捨てずに済んだ》や《新しくモノを作らずに済んだ》、また《オンライン流通により抑えることができた温室効果ガス排出量》といったプラス要因を算出します」
「一方で商品輸送など、様々な事業活動により排出した温室効果ガス量というマイナス要因も算出します。そしてその数字に内部炭素価格(企業内で独自に排出量に価格を付ける)を掛け《事業活動における環境面の機会とリスク》として示した金額が、23年は576億円でした」
──経済面5609億円と、環境面576億円。合わせて6186億円が23年のGCVということですね。
藤崎「これを25年には1兆円に伸ばすことが目標です。とはいえ、これは我々オークネットだけの数字ではなく、我々が仲介するお客様と一緒に作りだした数字です。業界全体で、この循環型の流通価値を大きくしていきたいと考えています」
二輪車販売店の環境貢献も見える化を
──2年間で4割近く伸ばすということですね。とても大きなスケールの話ですが、これを会員企業、例えば二輪車販売店でも実感できるようになるのでしょうか。
福田博介社長(以下敬称略)「そのようにしたいと考えています。例えば会員様がオークネットのシステムにログインした際、年間どれだけCO2排出抑制に貢献できたかが見えるといった姿をイメージしています」
──少し話が戻りますが《モノを捨てずに済んだ》価値を算出した点も興味深いです。
藤崎「商品のライフサイクルが延びた価値、とも言えます。例えばバイクやクルマであれば、年式や排気量も加味しています。高年式の商品がリユースされれば環境貢献度が高い、といった具合に。そうした理論はコンサルタントや研究者たちとしっかり考証し、算出ロジックに組み入れているのです(※一般社団法人非財務情報保証協会により『独立した第三者保証』が発行されている)」
──なるほど、何でも長く使えばサステナブルだというわけではないのですね。そうした算出ロジックの構築もさぞ難儀であったと思われます。
藤崎「大変だったはずですが、中堅社員が自ら買って出てやり遂げてくれました。そして、こうした取り組みに関心を持った若者たちが、いま当社を志望してくれるという現象も起きています」
──環境貢献していることが志望動機に。GCVを着想した時、人材採用にも効くと念頭にあったのでしょうか。
藤崎「いえ。これは正直、意外でした」
──同様に、リユースに積極的な二輪車販売店にも、感度の高い人材が集まるかもと期待してしまいます。そうした意味では、二輪車ユーザーなど一般消費者にもこの取り組みが知られるといいですね。
藤崎「ハイブランドのリユース品を扱うECサイト『ヴァルティーク・ヴィンテージ』では、全商品にCO2やH2Oの削減量を記載したタグを取り付けています。このECサイトは子会社のオークネット・コンシューマープロダクツで運営しており、メインターゲットを『人と同じものは持ちたくない、ヴィンテージが好き、自分らしさがいい』というファッション感度が高い若者と定めています」
──この商品を買ったことで、どれだけ環境貢献できるか見えるわけですね。
福田「バイクでもこうした取り組みを応用できるのではないか、と検討しているところです。特に日本ではビンテージバイク人気が根強いですし」
──それはぜひとも実現を願っています。また他社からもGCVの考え方を取り入れたいと打診があるのでは。
藤崎「そうですね。GCVの存在によって実現した提携があります。千趣会との共創事業である宅配買取サービス「kimawari(キマワリ)」です」
──千趣会というと、たしか通信販売の……?
藤崎「はい。通信販売のベルメゾンを手掛けている企業です。その会員を対象としたサービスで、まず不要になった衣料品などを段ボールに入れて送っていただきます。それを無料査定し、結果に応じたベルメゾン・ポイントを差し上げるというものです。ライフステージの変化などで役目を終えたモノをお預かりし、責任を持って次の人へつなぎます。付与したベルメゾン・ポイントは有効に使い、次の循環を作ってください、と」
──そこにGCVが関わっているのですか。
藤崎「サービスを利用してもらったことで削減できた二酸化炭素量や水の量を数値化して、利用者へメールでお送りしています。ここにGCVの算出ロジックを活用しているのです」
──思いもよらぬ循環を創出するのだなと。
藤崎「先述のモビリティ&エネルギーセグメントでも進めていますよ」
──一体どのような。
藤崎「現在我々はEVやハイブリッドカーのバッテリーを診断する技術を磨いています。現在のEVは5年も使用すると市場価値が激減してしまうのですが、バッテリーの適正評価を確立・標準化させ、価値を明示し二次流通を支えたいと思っています」
城戸洋司GM「診断にあたってはバッテリーを車体から取り出す必要があるのですが、EVバイクなら手軽ですね。ホンダ製EVが採用しているMPPのような方式であればなおさら」
藤崎「診断の結果、役目を終えたとされるバッテリーについても、活用の道、リパーパスを見出す方針です」
──リパーパスといいますと、用途を変えるということでしょうか。
藤崎「EVシフトに伴い増加する古いバッテリーを活用し、新たなものにつくり変え、自治体や地域の事業者との連携ができるなら、私たちもエネルギー分野で一定の役割を担えるのではないかと」
──乗り物のリユースから、まちづくりに。
藤崎「そうです。そこで二輪車と四輪車のオークション事業というだけでなく、モビリティ&エネルギーセグメントと位置づけているのです」
──二輪車のオークションからも今後新たな循環が生まれてくるのですか。
藤崎「現時点はまだ具体的な構想をお話しできませんが、いずれは」