過去から現在まで、プレス向け試乗会には相当数出かけましたが、今でも一般客というスタンスでショップの試乗車に乗せてもらうことがあります。そこで気がついたことがあります。

試乗希望のお客様を的確にアテンドしなければならないショップはスタッフにも相応の教育をしており、試乗車は前後サスが十分に動き、ギアシフトの硬さも取れている等、十分に慣らし運転が完了した車で、まさに試乗準備は完璧でした。

でも、普通に乗って普通に試乗が終わる。それは真っ当なことで不満はないのですが、何かひとつ足りないと感じるようになりました。

私のように身長があり、さまざまなバイクに乗り慣れているベテランだと、試乗車をスイスイと乗りこなしてしまう、つまりライダー側に適応力があるわけです。

ところが試乗希望者がビギナーだとどうでしょうか。ショップ側としてはなんとも思わないことでも「乗りにくい」「むやみに重い」等を感じる可能性があります。

試乗直前の大切な一瞬

これを避ける唯一最低限の項目。試乗者の運転スキルが不十分であればあるほど、試乗車のフィッティングや事前の説明が大切になります。

手が小さく非力な女性では左右のレバーに指が届きにくいし、レバー操作が重いと一瞬で試乗が嫌になるかもしれません。

試乗前にハンドルバーの高さ、レバーの高さをわずかでも微調整。しかもクラッチレバーがワイヤー式であれば、遊びの量を変更するだけでレバーの重さ(操作荷重)の印象は大きく変わります。チェンジぺダルの高さも、最適化すると実に気持ちよくシフトワークできます。ブレーキレバーの遊びやペダルの高さなども試乗前に確認し、可能な限りアジャストしてあげたいものです。

ビギナーの多くはスタイルやカラーリングやサウンドなど、車両のイメージで乗り始めます。それでも徐々にストレスが溜まって、試乗そのものをやめてしまうかもしれないのです。フィッティングは楽器で言えばもっとも大事な音合わせ=チューニングと同じかもしれません。

忙しいから無理なのか。忙しくてもやれるのか。やるならどこまでできるか、解答はありません。

フィッティングは重要ですが、もっと大切なことはお客様一人ひとりに向き合うきめ細かい取り組み姿勢ではないでしょうか。どんなセールストークよりも、それは価値のあることだと思います。

プロフィール

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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