今回はバイクを操るライテク論、それも二輪車販売店スタッフに向けたライテク論です。3回に分けてお話しします。 「あー知っているよ、そんなこと」ではなく、「知っているつもりだけど、さらに内容を改善するヒントがあるかもしれない」という視点で読んでいただければと思います。

初回のテーマは「取り回しやUターン」についてです。実際に私が何度か見たことがある販売スタッフのミスが、バイクの取り回し中の転倒です。毎日のようにバイクを店内から出したり、入れたりすれば誰でも上手くなります。上手くなるとその速度が自然に上がります。そしてある時、ガッチャーン!
 
SNS等で車庫入れを上手くやっているシーンを見せる販売店もありますが、それは自分のバイクだけにして、お客様のバイクは「絶対に倒さない!」という取り扱い態度と慎重さを強調する動画こそアップすべきでしょう。なぜならお客様は慣れてくると真似をしてしまうからです。

整備が終わったバイクをお客様の前までグイグイ走らせて、新品タイヤを滑らせて転倒するシーンも見ていますが、やはりこれも油断から起こるトラブルです。私もこの道45年以上やっていますが、簡単なことですし自分がやりそうにないミスこそ、絶対に避けなければならないと日々反省しています。
 
取り回しについては、まずはバイクが置かれている周辺路面の滑り具合や傾斜、そして周囲をチェック。わずか数分前と状況は変わっているのが当たり前。サクッと向き替えができる人ほど要注意です。
 
そしてハンドルグリップをガチ握りせず、腰で車体を支え、自分の体重でバイクを動かす、という方法も習得しておきたいものです。車体が垂直になっている状態がバイク操作は一番軽いのですが、一歩間違えると転倒してしまいます。確実にできる手法を最低でも2パターンは用意するぐらいの周到さが必要です。
 
エンジンを始動しての取り回しもアイドリング回転だけでゆっくり一定速度。それも時速3キロ以下を維持。とてもゆっくりしたスピードで取り回しをすることが必要です。5キロ以上になると車体傾斜が大きくなり、エンストやブレーキ入力での転倒リスクが一気に高まります。

「速さ」よりも「慎重」「正確」を売りに 

しかもアイドリング回転付近でのエンジンの調子を見るのが整備の基本。どんなに高回転でパワーがあっても、アイドル回転付近での不安定な回転は、お客様の運転ミスやストレスにつながります。「今どきそんなバイクなんかないよ!」と思われるかもしれませんが、些細な不具合はUターン転倒だけでは収まらないトラブルにつながるかもしれません。
 
販売店スタッフは、日常のルーティン作業にこそ落とし穴があると思って慎重な動作を行い、同時にそれをお客様は見ていると思って作業を進めてもらえればと願っています。日々の運転クオリティは納車クオリティに直結します。販売・修理スタッフは「速さ」よりもまずは誰よりも「慎重」「正確」を売りにすべきだと思うのです。

プロフィール

柏 秀樹(かしわ・ひでき) 
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。

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