●事前の根回し
●年上の部下への配慮
●外部への説明と連絡
●家族との話し合い

6年の歳月をかけて代表交代の準備をしてきたが、いよいよその時を迎えると、自分の心が揺れているのがわかった。本当にこれでいいのか?手放したものは二度と戻らない。時間を逆行することは許されない……。

そもそも自分のわがままが周囲に迷惑をかけないだろうか。私が社長でなくては、この会社はまとまらない、運営できないのではないだろうか。眠れない夜をいくつか越えて、その日がやってきた。

練り上げた計画は粛々と進めてきた自信があった。社長引退の取締役会は、思いのほか冷静に、その時を迎えることができた。

1カ月ほど前に副社長を呼び、一杯やりながら退任の意思を伝えた。他の役員の処遇を決め、肩書を変更した。配布する代表交代のお知らせを作った。重要な取引先には2人であいさつに向かった。その他はメールとファックスで伝えた。

最後の難問は、妻との協議であった。引退を告げると、妻が叫んだ。「仕事人間で、年中、家を留守にしていたのに、急に自分の都合で毎日が日曜日になるなんて!」「今さら家庭に、あなたの居場所はありません!」

そこまで言うのかと、ムッとする。しかし、自業自得だ。逆の立場になれば仕方ないだろうと思い直した。家庭内に着地場所がないとすれば、外に居場所を確保するしかない。

まずは、公共の場所を探る。定番の図書館は定年退職の先客がいっぱいだ。長時間でも居座れる昔からなじみの喫茶店は、すでに廃業してしまった。だが、パソコン電源と電波が通じれば、どこでもオフィスの開店が可能だ。ノマドのように場所を変え、時間を潰す術も覚えた。

形通りの取締役会決議を行い、株主総会議事録を作成し、登記簿謄本を書き換えた。株主名簿も作成、持ち株比率が明記された。(続く)

〈筆者紹介〉

内藤博/事業承継センター取締役会長

1952年横浜生まれ。27年にわたる二輪車関連出版社勤務を経て、2003年に独立。事業継承の専門家として1000件を超える経営相談、事業承継の実績を持つ。自身がベンチャー企業取締役として、成長発展から縮小リストラまで経験した強みを生かし、単なる承継問題にとどまらず、時には家族会議への参加や親子間の仲介も行う。著書「これから事業承継に取り組むためのABC」他。

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