足りなきゃ回せばいい
最初は、所有するビッグバイクの癖が出たのか、走り出して「ちょっと回したかな」ぐらいの8000rpm付近でシフトアップしていて、正直「250の力ってこのくらいだよな」というイメージだった。しかしアクセルを探るようにではなく、最初から大きめに開けるようにすると、エンジン音や吸気音と同様、マシンも力強くなって軽く扱いやすい車体が思うように動き楽しかった。
阿蘇のワインディングは本当に気持ちよく、一般道でも軽く取り回しの良い車体で、疲れることもなく快適だった。途中、店の前にZX-25Rを停め食事をとったが、停めている車体も存在感ある佇まいで眺めているのも楽しかったし、通りすがりの人が足を止めてみていたりするのを見ているのもオーナーの気分に浸れて気分が良かった。
途中雨に降られたが、ABSやトラクションコントロールも装備しているモデルであり、特にそれらのお世話になることもなかく安心感も高く走行できた。信号待ちなどで、ラジエターのファンが回った時、湿気を帯びた熱風を覚悟したが、カウル内のヒートマネジメント技術の恩恵か、蒸し暑い思いはしなかったのもありがたかった。
雨の中、山を登り、気温も道路の様子も変化する中をひたすら走ったが、ZXー25RはずっとZXー25Rで、突然恐ろしい一面を見せるようなこともなく、十分な力も発揮してくれる信頼感の高い、良い意味で計算が立つものだった。疲れたりどこかが気になったりといった身体に支障が出るような点はなかった。
太いトルクなどは望めないがパワーは充分で、レッドゾーンには2万回転の表示もあるエンジンは、「足りなきゃ回せばいい」という新たな余裕があり、そしてそれがビッグバイクのような、時に怖いものに感じられるような面がないことがとても新鮮で印象に残った。何より乗っていて楽しかった。
サーキットで味わう新たな楽しさ
翌日はサーキットでの走行。昨日まで一般道を雨の中やら様々なシチューションを走ってきたそのまま(ナンバーステーなどは取り外し)の仕様で、タイヤなどもそのままでサーキットに臨む。前後サスペンションも調整機構はリアのプリロードぐらいとなるモデルであるが、アイドリングからアクセルをひねったときのサウンドは、どうみてもサーキットが似合うたくましいものに感じられた。
ピットロードから4気筒の高回転サウンドを炸裂させながらコースインし、1コーナーへ。昨日長いこと座っていても痛くならなかったシートから腰をずらし、シフターのおかげでクラッチを使わずに“気楽に”シフトダウンし、一段と高まった4気筒サウンドとともに、昨日はあまりとらなかったコーナリングフォームで、コーナーへ進入。
出口が見えだすとアクセルを開けていきながら、再び甲高い音になるエンジンと点滅するシフトアップインジケーターがあり、見るとタコメーターの針はレッドゾーン。「自分、回せてます」の満足感とともにシフトアップ。
加速中は250㏄らしく、ビッグバイクのようなワープというか、強烈なものを感じることはないが、疾走している感はエンジンサウンドとともに非常に高く、フロントはシングルディスクであり、街乗りも想定したタイヤであるものの車体も合わせ非常にしっかりしていて、昨日このバイクで信号待ちをしたのが信じられないくらい、サーキットでもしっかりと走ってくれている。
あくまでも自分の中の基準ではあるが、サーキットにきてよく感じる「また、今日もだめだった」な感じがほとんどなく、なんだか自分がうまくなったような楽しさがあった。
ひたすら全開、6速全開
最終コーナーを立ち上がって直線に入り、車体に伏せてタコメーターの針を見ながらアクセルを全開、ひたすら全開。インジケーターが点く頃シフトをかき上げる。そしてまた全開。それも6速全開。
使い切った満足と咆哮のようなサウンドとともに1コーナーを目指し、ブレーキを開始しつつアクセルを閉じ3速まで一気に“クラッチを使わず”落とす。というかZXー25Rが「3速へ」の指令を確実に遂行してくれる感じ。そして立ち上がりながらまた全開。こんなにも回るエンジンで全開にできることって、最近はなかったことで、特にビッグバイクでは自分レベルでは、ほぼ不可能なことだった。
慣れてきたら遅いとも感じず、ましてや速すぎるというわけでもなく、ちょうどいい楽しさであり、どうやって使い切るかを考えて、いろいろとトライしながら、コースを周回するのはとても楽しく、まさにスポーツだった。
扱いやすい車体と回るエンジン、電子デバイスも助けてくれるので、ミスの少ない走りで楽しむことができる。そして、ピットを通過してサーキットを出て、このままコンビニに寄って自宅の駐輪場に止められるZX―25R。高いスポーツ性と普段使いが共存している懐の広いモデルだなと実感した。開発陣の中からすでに購入予定者が複数いるそうで、そういうカワサキの愛情が感じられる“出自の良さ”もこのモデルの魅力なのではないかと思った。(写真=南孝幸)