その表現上に使用するコーポレートカラーも、ブランド構成の大切な要素である。私が在籍していた当時、ハーレーマークに使用されるオレンジ色はアメリカではパントーンPMS165、日本では大日本インキDIC160と決められていた。今でも変わらないだろう。
マークの読み方・音声もブランドの重要な要素である。ハーレーのマークは「バー アンド シールド」と呼びならわされている。このように図形や色彩、読み方=音などが「商標」として無形財産を形成してゆくことになる。但し現状では音のみで構成されるブランドはまだ登録できない。一時期、森永製菓が使用していた「ピポピポ=モリナガ」の音表現がブランドとして承認・登録されるか否かに世間の興味が集まったことがあったが結局は登録できずに終わった。
ブランドに拘わる「ストーリー」も、近年では大変重視されている。ストーリーはブランドの思いや豊かさを多様に表現できる。従って今後新規にブランドを創造しようとする場合、ブランドの思いや背景をあらかじめストーリーとして構想しておくことも有効だろう。それがある方が世間にブランドとして記憶されやすく浸透もしやすいし、人々によって語られやすい。
多くの場合ブランド表現=ブランドマークは、経年の中で変更されるので、変化に対応できるストーリーであることが好ましい。トヨタも、ホンダも、日産も、ほとんどの自動車関連のブランドは各社の歴史の中で数度にわたりその表現が変更されている。その変化の中でブランドは、時代に即した一層強力なものとして補強され、変化を経ながら使用されてゆく。
従ってブランド表現に関しては時々の変化に対応できるように、何らかの基準を策定しておくのが有効だ。
ハーレーでももちろんブランドの基準書(コミュニケーション ガイドライン)が作られていた。それによって時間を超え、場所を変えても同じ表現が可能となるし、同じ表現を保たねばならず、ブランド資産の内容が明確になる。
商標の使用はまず何よりも商品においてなされる。その他の店舗でも、店頭においても、カタログをはじめとする印刷物でも、梱包やパッケージングでも、さらに看板や広告でも、DMでも、イベントでも、パブリシティーにおいても、ウェブサイトでもブランドの使用・表記がなされブランドは広がってゆく。
高まる無形財産権の重要性
ブランドを強化するには何よりもまずブランドを冠した商品が売れることである。売れない商品のブランドは強いとみなされにくいし育たない。
どこでも、いつでも同じブランドマークが使用できるように、ハーレージャパンでの使用は勿論、各地の正規販売店の各々においても適切にブランド使用ができるように、全関係先にブランドマニュアルとして上記した基準書を配布していた。そうすることで、いずれの販売店でも、例えばストアーデザイン店などへの改装にあたっても、ブランド展開が誤りなく確実に行われる。
ブランドの発信・使用は上記の基準に即して行われるが、その基本・基礎として日本でのブランド使用権を持つハーレージャパンによって、日本の法律に基づく商標登録を行った。法的な保護を受けるブランドであることを明確にするためにブランド=商標は、法律に従って登録を行うのである。登録されればブランドマークの右上には小さくRマーク(®)を添付する。
商標登録は国ごとに行われ、申請・登録された国における商標権が認められる。従ってアメリカで登録されていても、そのままでは日本での使用権が公認されるのではない。そのことで善意・悪意を問わず商標の登録や使用を行おうとする第三者に対して対抗し、不正使用を拒絶する権利を明確にすることができる。また、商標権侵害に対する使用の差し止め請求などが容易となり明確になる。
実際にはハーレージャパンが活動を開始した1990年の相当以前から、日本では「バー&シールド」をはじめとするハーレーの商標は、多くのオートバイ販売店で使用されていた。
これに対して使用差し止め請求を法的に行ってこなかったこともあり、ハーレージャパンが設立されてから対応しようとしても「時既に遅し」であった。既にたくさんあったハーレー商標を使用する、並行輸入業者や非正規販売店等ハーレーブランドを、ビジネス上使用していた者の数の合計は、全国で400店以上であった。しかも非正規の店であっても偽造品ではない本物のハーレー商品を並行輸入して、取り扱っている以上、ブランドの不正使用としては争いにくい。
この状況は今でも変わらない。ましてや当時はハーレージャパン自体が正式に商標登録を行っていなかった状況下で、それらのハーレーのブランドの、不正使用を差し止めることは当然できなかった。その状況に対抗する必要上、一定期間はバー&シールドマークの下に「契約正規販売店」と、わざわざ添え書きした看板を使用したりした。
今後とも商標権のような無形財産権の重要性は高まっていくと思われる。貴店でも改めて自店の商標を再確認されてはいかがだろうか。
※2021年4月16日付け号「一字千金」掲載
プロフィール
奥井俊史氏 (おくい・としふみ)
1942年大阪府生まれ。65年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。75年より東南アジア市場の営業を担当し、80年トヨタ北京事務所の初代所長に就任。83年より中近東市場で営業担当。90年にハーレーダビッドソンジャパン入社、91年に同社社長に就任し、19年間に数々の施策を展開し日本での大型二輪市場でトップブランドに育て上げた。09年より現職。