「本社ではリストラクチャリング(再構築)プログラムの下、定めた中期計画を進めている。新しい取り組みを進めるにあたっては、海外から赴任した支社長よりも現地の言葉でディーラーとコミュニケーションを取ることができる日本人社長が適任という判断のようだ」
そう語る野田社長の前職は、他社ブランドの輸入二輪車の日本法人社長。同じ市場で見ていたとおり、HDのブランド力は確かに強いと実感する。その象徴がHD初のアドベンチャーツーリングモデル「パンアメリカ1250」、そして来春に出荷を控える「スポーツスターS」だ。
21年6月に出荷が始まったパンアメリカ1250は、同10月時点で販売数400台に届こうかというところ。日本でも隆盛を極めるアドベンチャー市場において、BMWに次ぐ勢いを見せる。
既に国内全ディーラーが販売実績を持ち、中には20台売ったという店舗も。発売当初の予測を達成できる見通しだ。
一方、スポーツスターSもすこぶる好調。まだ実車がユーザーの目に触れていない10月時点で受注数が500台に達しようかという勢いだ。
「200万円近くする商品。その現物を見ずに購入する人が500人近くいらっしゃるというのは、何と凄いブランドパワーか」と、野田社長は目を丸くする。
ただ、全体を見渡せば良い話ばかりではない。HDJとしては販売台数を引き上げなくてはいけなというが、足かせとなるのが海外輸送の停滞だ。
幸いHDの生産は停まっておらず、前述のように日本での新型車受注も好調でバックオーダーを抱えている状況ではあるのだが、車両が届かない。納車できないのである。
「通常1カ月強で届いていたものが4カ月に延び、輸送費も7倍や8倍といった状況。21年の販売実績は何とか前年よりややプラスで着地したいが、予断を許さない。22年もやるべきことといえば何よりも、供給責任を果たすことだ」
全国113店舗に、そして受注したユーザーに対する責任を野田社長は語る。
そのディーラー、販売網については大きな再構築を予定してはいない。ドラスティックに数を増やすこともなければ、急激に質的向上を求め絞り込むこともない。
「既にHDJディーラーのクオリティは高い。ただ他社もディーラーのクオリティを高めてきている。現状に甘んずることなく、もう一歩レベルを上げていく。1店1店が憧れの対象になっていただけるよう、それぞれ内部でディスカッションを重ね、お客様への応対を見つめ直すよう働きかけている。例えばお客様一人ひとりのお名前を呼ぶとか、誕生日にお声がけするといったコミュニケーションもひとつだ」
各店がしっかり収益を上げていくため、HDJ自身も質的向上が欠かせない。この点で野田社長はひとつ手応えを得ているもようだ。
「自分で考えて、いま何をやらなければいけないのか、何を達成しなければいけないのか。そうした基礎ができている。例えばスポーツスターSのメディア向け試乗会を開くなら、従来はワインディングロードを舞台に選んだであろう。しかし今回は東京・中目黒を選び、二輪専門媒体のみならず、ユーチューバーや音楽関係者、アパレル関係者にも声をかけた」
こうした取り組みができるのも、HDJならではという自負がある。もちろんコロナ禍で19年から中断している「ブルースカイヘブン」など、従来大切にしてきたイベントも再開したい考えは持っている。
HDの自由な文化を体感する、同じブランドを皆で楽しむということを、より広い人々と楽しんでいきたいのだと強調する。
2022年1月1日発行・二輪車新聞新年特別号「輸入車/2021年実績と22年抱負」掲載