だが、一方で「モノがなければ始まらない」と嘆く。製品の入荷が滞り、21年の登録台数は20年並みか、やや減少で着地する見込みだ(21年11月現在)。
「4月まではある程度入荷したが、5月以降は半導体不足の影響で生産が停滞。予定の80%程度の入荷に留まりそう」
ただ2010年代にF3を皮切りとして3気筒モデルを市場投入したMVアグスタは、それをフックにユーザー層を大きく広げてきている。石井社長によれば「8年ほど前に登録台数が70%近く伸び、その後も同水準で推移している。MVアグスタといえば以前は限られたエンスージアストの乗るものというイメージであったが、200万円を切るモデルを投入したことで流れが変わった」ということだ。
現在では20代、30代の若いユーザーが購入する例も珍しくないという。そうなればディーラーを一気に増やし、さらなる成長を期したいところだが石井社長は慎重に構える。
「全国22店舗の現状から急激に変えることはせず、中長期的にフラッグシップディーラーが主要都市にそれぞれある状態にする。さらに既存のディーラーの質的向上を促進するなど、段階を踏んで成長させたい」
フラッグシップディーラーとは、現状では東京都・神奈川県・愛知県にある専売店。これを大阪などの他の主要都市にも置きたい考えだ。
また、既存店のブランディングも強化する。伊・MVアグスタ社が進めるディーラー・アイデンティティー政策を、日本の店舗規模に合うレベルにアレンジして什器・内外装等の導入を進める。何千万単位といわず200万~300万円ほどの投資でアイデンティティを確立してもらう。22年中には全店舗で行う方針だ。
製品の入荷が多少滞っているとはいえ、MVアグスタジャパンとして手をこまぬいているわけではない。他にも多くの最新機種を保有し、有料で30分~2時間ほどたっぷり試乗できる「テストライドポイント」ディーラーも20年から継続しており、好評を博している。
現在は関東・東海エリアの5店舗での実施だが、今後は別エリアでも展開したい。他の欧州二輪メーカー車と比較検討するユーザーが増えてきた現在、「やはり見てもらい乗ってもらい納得して購入して欲しい」と石井社長は力を込める。
また有料とまでいかなくとも、少人数での予約制試乗会「パーソナルテストライド」も20年から各店舗で実施している。これも反応がよく、成約率を伸ばす要因になっているようだ。
なおMVアグスタジャパンとしては同じくイタリアのバイクブランド・イタルジェットも手掛けている。19年に発表された「ドラッグスター」が、21年12月よりついに入荷が始まった。
「月間50台入荷する計画だが、現状で300台を優に超えるバックオーダーがある。納車までさらに半年お待たせしてしまうお客様もいらっしゃるが、幸いにも今のところキャンセルは少ない」
しっかりディーラーとユーザーの手元に届け、イタルジェットをMVアグスタに続く二本目の柱に育てていきたいと考えている。
2022年1月1日発行・二輪車新聞新年特別号「輸入車/2021年実績と22年抱負」掲載