コロナ禍でも売上げを立てることが出来たと、加盟店から多くの声が挙がった二輪車のレンタル事業。実際にオーナーからは「店頭にレンタル車両を展示するのだが、新車が不足している時には商材が十分に揃っている店舗と見えて、たくさん問い合わせや来客があった。あと、コロナ前と比べて短時間での貸し出しがかなり増えた。おかげで回転率が向上して売上げにも貢献した」などの声があり、レンタル事業によって安定した店舗運営ができたという。
その二輪車レンタル事業の大手で『レンタル819』を展開しているのがキズキグループ。現在、全国で154店が加盟、取扱い車両も3500台以上(2022年4月現在)という規模を誇る。また、輸入二輪車ドゥカティの正規販売店や二輪車のツーリング旅に特化した旅行会社「モトツアーズジャパン」のほか、電動二輪車をアトラクション体験できる「e-TRAIL PARK」も展開するなど、二輪車関連の事業を複数手がけている。
キズキグループの創業者である松崎一成氏がレンタル事業を始めたのが2007年。二輪ビジネスの創業は1985年にまでさかのぼる。創立後ほどなくしてホンダのウイング店から出発し、新車はもちろん中古車も手がけたことで売上げも順調に拡大。当時は3年周期で店舗スペースを拡げていき、支店も新たに立ち上げて、大型二輪車専門店まで出店した。ただ、後年になると国内販売の先行きを案じ、それまでとは異なる領域へ活路を見いだしたという。
「今のようにレンタルが普及する前は“バイクは人から借りて乗るモノではない”という習わし的なモノがありましたよね。でも、世の中の価値観が時代と共に変わっていく中で、バイクをレンタルするというニーズが高まっていくだろうと思ってスタートしました」
「実はそこに至るまでに、業界の事情というのが背景にありました。店頭でバイクを売っていた当時は、国内の販売台数は年間で300万台以上ありました。そこから市場は縮小していくのですが、そうした中で新車に依存していた店舗が中古の販売を手がけるようになっていくのも必然であり、実際に販売の現場では多々ありました」
「しかし、新車の供給が減少していく中で、中古車のタマ数も当然減っていくわけです。他方、国内から海外へ中古車を輸出するビジネスも活発化してきました。そうした状況を鑑みると中古車両もそのうち先細りして大変なことになるのでは、と思い始めました」
国内の二輪車販売を見ると、82年に記録した年間出荷台数380万台(本紙データ)でピークを迎え、16年には34万台を割り込むまで縮小が続いた。新車と中古車市場は密接にリンクしているが、新車のラインアップが減少する中、中古車販売への注力に不安を感じたという松崎氏。少しずつユーザーそのものが減っていくのではと、業界全体に危機感を覚えるようになったという。
「さらに、歳月が経つと免許制度も変わり大型自動二輪免許が自動車教習所で取得出来るようになりました。そうなると、扱う車両も大型車が中心になってくるのですが、今までの小型~中型車と比べると高額になります。また、教習所で大型免許を取得したリターンライダーにとっても、以前に乗っていた中型車の感覚で乗ろうとしても、性能が向上しているし、車格も大きくなったことで、ユーザーにとってもハードルが高くなりました」
バイクに乗る人を増やし、新しいバイクラフを堤南
「もうひとつ、事業を始めるのに後押しした出来事があります。06年に施行された「駐車場法」にバイクが適用されたことで、歩道へのバイク駐車が検挙の対象になりました。特に都心では違反切符が集中的に切られることが多くなったため、バイクを手放す人が増加し始めました」
「所有しても出先で駐車できない問題や、大型車両を乗っても満足に乗れない状況もあり、せっかくバイクの世界に飛び込んだのに、楽しまずに降りてしまうユーザーに対して非常に心苦しく思っていました。そこで触って体験し、試乗が出来て楽しめるサービスがあれば良いのでは、と思い至ったのがレンタルバイク(819)のきっかけです。レンタル819はバイクに乗る人たちを増やすためのサービスであり、新しいバイクライフの提案でもあると思っています」
今では多くの人がレンタル819を全国各地で利用しているという。その一方でサービスを始めてからも、ユーザーの使い方に気付かされる事が度々あったそう。
「バイカーズパラダイス(南箱根に立地する主に二輪車ユーザーに向けた施設でレンタル819を営業)で独自の時間サービスを利用して、1日6台もレンタルをしているユーザーの方がいました。周辺が峠道という事もありますが、短時間で車両の比較試乗が出来るので、時間の制約がある人にはピッタリなサービスだと思います」
レンタル819でラインアップする車両も原付一種から二種、軽二輪に小型二輪、国産から輸入車まで、排気量・車体サイズ別に数多く揃えているのも特徴である。最近では店舗によって、電動二輪車の取扱いを始めた店舗も増え、さらなるバリエーションを展開している。ちなみにレンタル料金は始めた当初、松崎氏と親しい販売店のオーナー同士が集まって、貸し出しの規則や手順、料金なども含めた勉強会的な所からスタートして決めたという。
「販売店として培った基本的な所や感覚的なモノも含め、私たちが集まって知恵を出し合って作り上げてきました」と振り返る。
「今ではバイクをレンタルすることが認知され、二輪車メーカーも大きなビジネスと捉え、積極的にレンタルへの取り組みが始まりましたが、事業としてはまだまだ拡がりを見せていくと思っています」と述べる。(続く)