レンタル819事業をスタートして、今年で15年目。事業は非常に好調だという。
「レンタルビジネスは二輪車業界には『バイクに乗る人たちを増やすサービス』として、ユーザーには『新たなバイクの楽しみ方ができるサービス』として、認知され拡がっている――。二輪車メーカーが進めているレンタルもそうだが、バイクに乗るファンを増やすという同じ共通目的がある。業界的には望む方向に進んでいる」と、松崎氏は話す。
ただ、2020年のコロナ禍では大きな衝撃があったと続ける。
「同年の2月にイタリアでロックダウンがありましたよね。そして4月には日本政府が緊急事態宣言を発出。正直、この先どうなるのだろうと心配しましたし、過去に経験のない大きなショックでした。当時は東京2020オリンピックの需要を想定して、海外からのレンタルユーザーを見込んでいましたが、それが一気に途絶えました。
「売上げも3カ月くらいは昨対比で60%減くらいまで落ち込みました。でも、7月から回復の兆しが見え、8、9月と月を重ねるごとに需要が高まって11、12月には昨対比を超え、その翌年の21年は19年同様にまで回復しました」
コロナ禍でレンタルだけではなく新車需要も増え、さらにバイクの楽しみ方も変化してきたと分析する。
「コロナ禍でバイクの楽しみ方が見直されたと思います。以前のバイクツーリングといえば、お互いに乗っているバイクのスペックを誇る楽しみ方だったように思います。実際にメーカーもスペックを重視したPRをしていたし、走るシチュエーションも峠道がメインでしたよね。今は違います。自分の時間を楽しむ使い方が拡がっています。タレントさんがバイクに乗って旅をするTV番組の影響もあると思いますが、どこか知らない街を旅するためにバイクをレンタルする人があきらかに増えてきました」
以前の二輪車の楽しみ方といえば、排気量や出力の高い愛車を所有する、あるいは走りを楽しむ事が目的であったが、今はそうでなく、観光地へのツーリングやソロキャンプなどを目的に、そこへの手段として二輪車をレンタルする。“手段”と“目的”が時代と共に変化してきたことの証だろう。自分の時間を楽しむことを目的に、それを達成するための手段が二輪車なのだという。
ここまで事業が好調で順風満帆かと思いきや、そうではないという。始める前は手を付けるべきか、とにかく悩んだと振り返る。
「実はレンタル819を始める前に、経営コンサルタントの人にアドバイスをもらったんです。でも、実際に事業を始めるにはもう少し経験を積み重ねてからと思っていました。ところが、その人から『なぜ今やらないのか?』と言われました。私は『経験値が足りないし、何よりどんな問題が起きるか分からない』と返事しました。しかし、『起きる問題がどんな事か分からないのに、準備なんか出来ない』と言われたことで得心して腹を括りました」
「それからは大小を含めて問題が生じる場面はありましたが、その問題に真摯に向き合い“解決できない問題などない。問題に正しく向き合い解決する”という、信念に基づき取り組んできた結果、ビジネスが拡がりましたね」と振り返る。
レンタル819は理念の賛同者とともに展開
そして、松崎氏には販売店主として、自身で得意とすることがあったと述べる。
「これまでのビジネスを振り返ると仲間を作るのは、すごく得意だったと思います。お客様もすぐに友達のような関係になり、仲間付き合いをしていました。バイクの販売店というよりはバイク好きな人たちが集まる場所、コミュニティの場みたいな店づくりをしてきました。二輪車販売店って、そうすることでずっと商売が続くんですよ」と笑う。
これらのことは、レンタル819としての理念にも通じているという。これまで二輪車業界や異業種の人たちも含めて、レンタル事業の考え方に共感・賛同してくれる人とともに作り上げてきたし、これからもそうしていきたいとしている。
「バイクを楽しそうに乗るお客様の姿や共通の趣味がバイクというだけですぐに仲間になっていく。レンタル事業を通してそういったことが目の当たりにできるのは良いですよね。全国で見るとレンタル819の空白エリアはまだあるので、こうした想いに賛同してくれる方々と手を携えて作り上げていきたい」と思っているという。
16年からは全国各地をバイクで周るバイクツアーをプロデュースする「モトツアーズジャパン」にも注力している。
「19年にEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)に視察に出かけたときに、欧州からアルプスを越えてモロッコまでバイクで縦断するツアーを組んだのですが、ヨーロッパからアフリカ大陸に入った瞬間、広がる視界や風土など別世界に足を踏み入れたと分かるんです。あれは衝撃でした。でも、この旅でスペインのツアー会社の社長にエスコートしてもらって経験したことが一番、感動しましたね」
「ツーリングで得る風景もそうですが、ツアーのスケジュールや宿とかホスピタリティとか全ての流れを完璧におもてなししていただいたんです。単純にバイクで走って、帰ってくるということではなくて“かけがえのない体験・経験をしてもらう”ことをビジネスとして継続して行っている。このビジネスモデルはまさに日本でもやりたいことだと、再認識しました」と、語気を強める。
「世界中どこを見てもこんなに素晴らしい固有の文化と、四季折々の豊かな自然を有する国は日本以外にないですよね。社会インフラ面でも安全で安心。そんな日本を世界中のバイク愛好家に紹介するバイクツアー。是非、国内外に広めていきたいですね。それに対する追い風も吹き始めています」
「昨年開催されたバイク・ラブ・フォーラム(二輪車産業政策ロードマップ2030)にも、バイクツアー文化の創造、地方公共団体と連携した取り組みが盛り込まれました。そうした動きもあり、国内にバイクツーリズム文化というものが根付くようになったらいいなと思っており、それを具体的に展開しようと進めているところです」
日本に二輪車文化を広めたい
KIZUKIグループでは、同時にレンタルやツーリング以外に二輪車文化を拡げる事業も行っている。それは、電動バイクを使ったアクティビティ施設「e-TRAIL PARK」だ。現在は神奈川県海老名市に1カ所のみだが、今夏にはバイカーズパラダイス南箱根や群馬県の施設にも開設する予定だ。
「電動バイクを使っていますが排出ガスも出さないし、音も出さないので静か。それに屋内なので天候にも左右されず楽しめる施設になっています。ユーザーのレベルに合わせたコース設定になっているので、バイクの免許を持たない方や腕に覚えのある方でも楽しめるようになっていますよ」
「若い子たちには、身近なところでバイクに触れる・乗れるっていう機会があれば、オートバイの楽しさや、何が危ないのかを理解できる。だから危なくないように乗るんです。やっぱりそういった事をしっかりと子どものうちから教えるのは大事ですよね。そうした思いもあって、生活に身近なショッピングセンター内で開業しました。乗れる条件は16歳からですが、学生さんたちがこぞって乗りに来るんですよ」と、破顔する松崎氏。
レンタル819にモトツアーズジャパン、e-TRAIL PARKといずれも二輪車での新たな体験をしてもらうサービスを提供することで、業界の活性化を目指すKIZUKIグループ。ツーリング文化に加えこれまでになかったバイクツアー文化を広め、全く異なる視点からのアプローチで、日本に新たな二輪車文化を根付かせていくという。(終わり)