店内は綺麗で、展示車両に埃もかぶっていないのですが、陳列方法は特に印象に残りません。何をアピールしたいのか不明かなと漠然と思っていたところ、たまたま販売スタッフから、店の印象を訊かれたので、こんな風に返答しました。
「私の仕事はコンサルではないから的確なアドバイスにならないかもしれないですが」と前置きしたうえで、「オンロードとオフロードとかの区分けは難しいですし、その必要性はないのかもしれません。スーパースポーツにお乗りのお客様が、いきなりビッグオフに乗り換える例も多いですし。でも、新型車が入荷しているのにいつも同じ配置でバイクが置かれていると、お客様は動きのない店と感じるかもしれないですね」。
うなずくスタッフさんに私は続けた。
「だから月単位などスケジュールを決めて、配置を替えてみてはいかがでしょう。例えばビッグオフなら前輪を高く上げつつキャンプ用品を置き、オフロードウエアをマネキンに着せて、具体的なイメージを持っていただく。主要モデルに絞り込んで、店の入り口や道路から見えるような場所にライトアップする手もありますよね。定期的にお店の中や外側から見えるものを配置替えすることで、活気のあるお店と判断されるかもしれません」と返答。
「他に気になったところはありますか?」とスタッフは続けてきました。
「外観も展示もトイレもすごく綺麗になったけど、さすがにトイレ内にタオルを置くのはやめましょう。専用のペーパータオルが基本でしょうね」。
主義主張が感じられるショップ作り
実を言うと、今回の事例はあえて書きました。ショップのスタッフがいきなりお客様に、店の印象をアレコレと訊く事例はないからです。今回は私がこのショップによく出入りしていて、顧客向けのライディングスクールをやっている関係で、私もお店を応援したいという気持ちがあるから正直に答えたまでです。ショップのオーナーやスタッフと、相応の信頼関係があるからできるやりとりです。
周到に外観や店内を見回しても、それは自分が見た主観でしかありません。なくて七癖というものは意外にあるもの。ですから、客観視するために外部の意見や感想を聞くわけですが、その大前提になるのが信頼関係。これを築くことこそ私は大事だと思います。
非常に綺麗な外観とお洒落な店内ディスプレイ。そんなフォーマットが重要であることは、スタッフは重々承知しています。しかし、そこに行き着くと「やることはやった」という次元にとどまってしまうかもしれないのです。お客様が満足するのは「他の店とは違う」というお店側の主義主張を感じた時です。
「バイクはどこで買っても同じ」とお客様に絶対に思わせないショップ作り。そのためにお客様を魅了する創意工夫が、これからますます必要になると思います。
プロフィール
柏 秀樹(かしわ・ひでき)
1954年山口県生まれ。大学院生時に作家の片岡義男と、バイクサウンドをテーマにしたLPを製作。卒業後フリーランスのモータージャーナリストに。各種海外ラリー参戦も含めた経験を活かし、現在「KRS・柏秀樹ライディングスクール」を運営。全国各地で初心者やリターンライダー、二輪車販売店社長・社員に、安全意識・運転技術改善に役立つノウハウ伝授をしている。ベストセラーになったライディングDVD他著書多数。