事業継続に悩む販売店の息子や店長に、社長への後押しをしてあげるのが「二世会」の趣旨であることを説明したスズキ二輪の濱本英信社長。前回は「世の中の流れが早くなっている。なので、社長になるには覚悟が必要である」とも述べた。そうした変化に付いていくのは若手であり、彼らが主役だという。

今後はITへの精通が必要不可欠。若手が主役になる

前回は「世の中のスピードが早く、昔は20~30年で経験してきたことが、これからは5~10年と短い期間で経験をするようになる。なので、跡を継ぐには地に足をつけて目を見開いて、その流れには乗ってください」ということを伝えました。その元となるエピソードをお話ししたいと思います。お客さんとのコミュニケーションが変わってくるという話しです。

2012年か13年くらいでした。私よりも先輩のとある販売店さんの社長との会話ですが、その人が言うには「これからはお店とお客さんが一対一で結ばれないといけない」と言うのです。どうも雲を掴むような話しだったので、弊社のIT(情報技術)本部の責任者に販売店の社長へ直接話しを聞き確認してもらったところ、それは後になって分かりましたが、スマートフォンのLINE(ライン)でした。

(株)スズキ二輪 代表取締役 濱本英信氏

画像: 販売店は今後も必要だと述べる濱本社長

販売店は今後も必要だと述べる濱本社長

ラインは11年6月に出てきたスマホ用のアプリですよね。それがお客さんと一対一で結ばれて色々な情報交換をしていく、していかなければならない、ということを述べていたのです。コミュニケーションの手段が変わるということを見据えていたのです。先見性があったのでしょうね。

さらに当時、ある県では20代の経営者がすでに商売にラインを活用されておりました。ラインを活用して商談を行って、お客さんと初めて顔を合わすのが納車の時という話しも聞きました。

私だって当時はスマホを持ってなかったんですから。今、私がそれを理解するわけです。振り返ってみて“そうか、そういうことだったんだ”とね。なので、これから世の中ってどうやって変化していくのか、全く分からないと思います。そうしたITを中心とした世の中の目まぐるしい変化への対応はそういうものに精通してない、関心を持っていないと正直、厳しいと思います。

スズキのフラッグシップモデル『ハヤブサ』が3代目になったときに、電子制御システムが多機能になり、メーターを見ながら各種の操作・設定をするのですが、そうした最新技術にも精通していなければなりません。

仮に私が販売店さんの社長や店長で、ハヤブサの購入目的で来店された20代から30代の若い人たちに商品説明をしても、果たしてその人たちが買ってくれるのだろうかと、単純に思いますよ。逆に私が買う立場であれば、社長が50代から60代だと私と近い年齢ですから、その人から買いますよ。信頼がありますし、なにより経験値がありますからね。でも、そうした最新技術への適応能力は若い人たちが長けているし、何より説得力が違ってくると思います。

私自身ITは苦手な分野でした。スマホも持っていませんでした。でも、以前にハッとする出来事があったんです。

弊社は1年に1回、社長と社員が面談するんですが、某営業所で社員と面談した際、20代の彼に言われたのが、「社長、スマホ持ってますか」と、そのときは胸を張って「持ってないよ」と返事をしたんです。そしたら「だから駄目なんですよ」と言われたんです。悔しくてね。その後、一人で携帯販売店へスマホを買いに行きましたよ。

将来は自分たちで二世会を運営してほしい

私の話しはさておき、二世会の話しを。二世会は将来的には自主運営してもらいたいと思っています。何故かと言うと、メーカーが主催する会議は継続せず途中で途切れますよ。私もいろんなところで、手を替え品を替え会合を作りましたけど、メーカー主体でやる会議はもう絶対に続きませんね。

何故、自主開催が良いかと言うと実例があるんです。鹿児島県でスズキ二輪副代理店会があり、年配の方が中心なんですけど、かれこれ47年続いています。その会が自主運営なんですよ。

会合には会長と副会長がいて、会計係がおりちゃんと規約もあるんですよ。余談ですが30回の記念大会は静岡県浜松市で開催し、スズキ本社から鈴木修会長(現相談役)に来て頂きまして大変盛り上がったことを覚えております。

そこで思ったのは自主運営するから長続きしているのだと。これが二世会の今後のスタイルになっていけば良いと思ったんです。そういうのがあって、自主運営にしていきたいと思っています。それと自主開催だといろんな案が出てくるんですよね。イベントもそうですし、仕切る人も輪番制になることで、地域ごとや自分たち販売店のテーマを議題にするなど賑やかでホットな会合になりますよね。

販売店さん同士で、横の繋がりが持てるのが肝心

ただ、いきなり会合でその話しをしたらハードルが高くなりますからね。自然体で、各地域数名~20名くらいで運営して欲しいという思いがあります。そうすると今度はメーカーが招待される立場になるでしょ。そのようになれば良いなと思ってるんですけどね。

会合も大事ですけど、その後の懇親会が大事。開催することで販売店さん同士、横の繋がりができるのですが、実はこれが一番肝だと思います。そこで横の繋がりが持てたことで情報が一緒に共有できるし、いろんな悩みや相談ができる。

だから、頻繁に懇親会はあった方がいいんだよねって言ってます。だって、会議をやってるときには誰も悩み相談なんか言いませんし、できませんよ。やっぱり懇親会が必要なんですよ。大体そういうところから、本音の悩みが出てくるんじゃないですか。

ただ、1回目は参加された全員に来てもらいましたけど、2回目以降は会議だけで帰る人もいますから。中にはやっぱり嫌だっていう人もいます。だから懇親会の参加は強制ではないんですよ。

代替わりして社長になると、ステージがガラッと変わるんですよね。経営者としての考え方になるんです。質問内容が以前とはレベルが違うんですよ。

ある販売店さんでは「次はうちの社員教育を何とかやってもらえませんか、研修みたいなのを考えてくれませんか。給料はうちで負担するから社員教育をして欲しい。1年間スズキ二輪で働かせてもらいませんか」という具合で質問のレベルが違うんですよ。前回も話しをしましたが、それが「若手経営者会議」に繋がっていくんです。

ちなみにスズキ本社では実際にそうした経営研修生制度を設けております。3年コース、5年コースがあります。

こうした考えで二世会を2018年5月から開催してきたのですが、ご存じのとおり20年に新型コロナウイルスによって日本全国に緊急事態宣言が発出されました。その年の2月に開催し、全国各地の販売店さんを訪問しながら、趣旨を説明して懇親会もしっかりやる方向で進めるつもりでしたが、同月以降は開催中止で20年~21年も未開催。

ただ、21年はコロナ禍でしたが、全国の二世会店を直接訪問して販売店の皆さんとお会いすることができました。でも、この2年間のブランクが大きいですね。この空白期間がなかったら、今頃は自主運営で行けたのにという悔しさはあります。だけど、これはもうしょうがないです。22年4月から再開させました。

2018年全国で28回開催
2019年全国で25回開催
2020年2回(2会場)開催以後中止
2022年4月より再開。9月時点で24回開催、172人が参加。
11月以降は23年1月まで14回開催予定 (11/4現在)
二世会・訪問回数

メーカーとお客さんの間には橋渡しをする人が必要

今後、インターネットで車両販売を始める時代が来るのかもしれませんが、やっぱり二輪車はメンテナンスが付きものですよね。四輪もそうですけど。販売店さんがなかったら、困るんじゃないですかね。今後はネット販売も良いとは思います。いろんな取り組みがあって、お客さんが購入する所が拡がっていくのは大変良いと思いますよ。

また、その一方でこれから先、特にカーボンニュートラルに関しては最新技術が導入されて様々な商品が出てくると思います。それはメーカーが一生懸命注力するのは当然ですが、そうした商材が今後、発売されてもメンテナンスはお客さん自身が行うのでしょうか。違いますよね。“ちょっと待ってください。お客さんとメーカーの間にはやっぱり橋渡しをしてもらう人が必要ですよね”と。

販売店さんの人たちのことをちゃんと見ていかないと“気がついたらなくなりました”では、絶対困りますよ。メーカーが直営店で売るという方法もありますが、それには限界があると思います。スズキ二輪では直営は全国で13店舗しかありません。だから、販売店さんはなくなると困ります。

代替わりの話しをしてきましたが、経営を息子さんや店長が受け継がない場合もあります。その場合は『事業継承』という案件になります。こうした話しは今後、絶対出てくるし増えてくると思いますよ。

販売店さんを絶対に減らすわけにはいかないと言っても、個々の事情や様々な要因で自然に減っていくのは避けられないと思います。ただ、後継者がいないから廃業というのは避けなければいけない。販売店さん同士を結びつけて上手く事業が繋いでいけたらと思います。

初めは誰だって不安です。社長もいきなり大きな商売をやってきたわけではないです。最初は間口も狭くて小さいお店をコツコツとやってきて、段々と大きくしていった。どこの販売店さんだってそうじゃないですか。多くの支店をお持ちの販売店さんだって元は小さな店舗ですよ。商売のスタートってそうじゃないですか。

ただ、実際に一念発起して継ごうと思ったはいいけど、多分不安になると思うんです。二輪車のメンテナンスや整備だったら、腕に覚えがある人だったら自信があるでしょう。でもその他の経営に必要な要素、会計とかお客さんへの接客対応とか必要ですよね。ずっといつまでも自分がメンテナンスや修理をしながら経営するのは、それは厳しいという話しはしています。全部自分一人でできるわけはありませんから。

家族経営だと息子さんや娘さんには、奥さんや旦那さんがいるわけじゃないですか。だから早くパートナーにやってもらうんですよ。最初半年や1年間、先代社長から教えてもらってそこで覚えて代わってもらうとか、大体そういうふうにアドバイスしています。

本格的に社長になると言ったら、経営の実務は身につけなければならない。絶対に。でも、まずは継ぐ意思があるかどうかです。(続く)

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