ヤマハ発動機販売㈱ 代表取締役社長 松岡大司氏
――入社後は国内の販売会社で4年間勤務。その後、念願叶って海外へ。そこで学んだことは。
「最初はベトナムへ赴任したのですが、赴任後の3年間は本当に自分では何も出来なかった。頭の中では考えていても身体が動かなかったんです。失敗したくないというか、ちょっとプライドが高かったというのもあったと思います。そこを上司に厳しく指導を受けて自分なりに考えて、チャンスを与え続けてもらい、最後の1年半でようやく認められました。その後『もう少し頑張ってみるか』と言われ、今度はインドへ赴任しました」
――上司から教わったことは。
「とにかく『こだわりを持ちなさい』と言われました。結果にこだわるのは当然ですが、それに至ったプロセスや企画テーマにまでこだわる。そうすると〝お客様の立場になって物事を考える〟というのが起点になってくるんです。それがマーケティングの基本だと言われましたね。実はその上司はベトナムで勤務していた当時は直属の上司ではなかったのですが、インドに来た後に社長として赴任して来られました。ずっと鍛えてもらっていますね
それとスピード感にはこだわっています。市場に出すスピード、物事に取り組むスピード、いろんな所でスピード感は重要だと思っています。海外で勤務しているとスピードを否が応でも意識します。日本に一時帰国して現地に戻ってくるとインフラが劇的に変わっていたり、発展の早さには驚かされます。そういうのを目の当たりにしてきたこともあり、スピード感は大事にしています」
――赴任先で一番の思い出は。
「インドですね。当時インドではスクーターのブームがすごく進んでいる中で、ヤマハだけがスクーターをラインアップしていなかったんです。なので、ようやくスクーターを導入するタイミングで販促活動をイチから企画して、現地のメンバーと一緒に活動してきました。
インドではスクーターは女性がメインユーザーなんです。子どもの送り迎えや買い物など、女性の社会的な進出もあり需要が旺盛でした。ただ『乗りたいんだけど、乗ったことがない』と言う声が多かったので、そこでインド版のYRA(ヤマハ ライディング アカデミー)を導入しました。本社の支援を受けながら、現地でインストラクターを育ててきました。開催する場所もマンションの駐車場などで行っていましたね。音楽を流しながら何かイベントをやっています、とアピールしながら来場者が来たところでヘルメットを貸し出して、気に入ってもらったら近くの販売店で購入していただくスタイルをずっとやってきました。
ただ、インドは本当に難しかったですね。現地と日系他社の二輪車ブランドが強いというのはあるんですけど、実際に買っていただいて口コミが他のお客様に広がるまでの道のりは、相当長かったですね。良い商品とサービスがあっても中々売れないというのを実感しました」
――これまでの新興国から転じて、現在の成熟した国内の二輪車市場をどのように見ていますか。
「スクーター領域のコミューターから、大型スポーツモデルといった趣味性の高い商材が全部ラインアップしている市場であり、同時にお客様が求める品質が非常に高い市場だと認知しています。そこで商品とサービスを提供していく厳しさは覚悟しており、気持ちを引き締めなければと強く感じています。
国内の市場規模は原付二種以上の領域は毎年、比較的安定した販売台数を示しております。その一方で、近年は若いお客様が増えてきており、トレンドとして重要視しています。それを一過性で終わらせるのではなく、興味や関心を継続させていきたい、生涯にわたってヤマハで楽しんでもらう、ヤマハファンを増やしていきたいです」
――ファンを増やす具体的な施策は。
「ようやくコロナ禍が収まりつつあるので、今年はイベント数を増やしていく方針です。一方、前任者の石井(謙司氏)が示してきた事業の方向性は継承しながら、お客様の立場に寄り添って様々な活動を進化させていきます。実は一昨年、日本に帰国してからYRAを見学したのですが、受講している初心者ライダーたちの表情を見ていると、最後は自信を持って帰路につくのを見て、受講者の満足度が非常に高いコンテンツだと感じました。こういう新規層に向けた地道な取り組みこそが大事だと強く認識しましたね。
YRAは、現在年45回を実施しております。オンシーズン中はほぼ毎週末、どこかで開催している状況です。多くのお客様に受講いただき、好評をいただいておりますが、マンパワーを含め持っているリソースには限りがある中で頑張って運営しております。今後も、しっかりやっていきたいと思います」
出展した市販予定車はヤマハからのメッセージ
――直近のイベントでは市販予定車を数台展示しました。
「今回、出展した車両ですが『YZF-R1』や『MT-10』、『XSR900』を頂点とした各シリーズの原付二種・軽二輪のエントリーモデルとして訴求し、バイクライフを始めてもらうきっかけを提供しています。ただ、昨今は排出ガス規制の問題もあり、ヤマハの中でも提供できる商材は無尽蔵にあるわけではないので、優先順位を付けております。
市販予定車は、私が就任する前から前任者が本社に要望し続けてきた取り組みでもあるので、若い人だけにとどまらず、年齢性別問わずみんなで楽しく遊べるモデルを提供していくという、ヤマハからのメッセージとしてしっかり訴求していきます」(つづく)