一般業務を含む重整備まで
販売店スタッフの知見・技術向上の場に
22年1月に東京都江東区新木場に新たに開設した「トレーニングセンター」は、それまで同区の有明本社で行っていたトレーニングを近隣の施設へ移転。設置できる機材も増えたことで、倍近い人数が研修を受けられるようになったという。
新しい施設の広さは100坪で、20人近くが一同に受講できる部屋やエンジンを2基同時に並行して分解整備を行えるスペースのほか、受講者が休憩中にくつろげるカウンターなど、研修に必要なあらゆる教材・ツールが揃っている。また、純正・アフターパーツで装着されるWPサスペンションのトレーニングにも取り組められるようになっている。
同センターで講師を務めるのが、アフターセールス&テクニカルトレーナーの文冏洙(むん・きょんす)さん。韓国出身の文さんは日本語も流ちょうで、以前は四輪メーカーで同じトレーニング業務に携わっていたという。
「クルマが好きで、日本で自動車のことを勉強しようと2002年に来日しました。特にマツダのロータリーが大好きです」と話す文さんは、来日後は千葉県の四輪販売店のメカニックとして勤務。当時、全国のメカニックを対象にしたコンクールがあり、そこで優秀な成績を収めたことで表彰されたという。その時にメーカーから声がかかり、全国のメカニックへ研修を行うトレーニング業務に携わることになり、転職した現在はKTMジャパンで同じ業務を行っている。
今回取材したトレーニングセンターは、KTMの本社(オーストリア)から要請があり、全国の販売店スタッフの知見と整備スキルを高めるために行っているという。
以前、本紙が取材したKTM販売店の代表者によれば「KTMはスペックの高さが魅力であり、モデルによってはメンテナンスサイクルが早い車両もあるが、基本メンテを定期的に行うことで高いパフォーマンスを維持できる。手間はかかるけど楽しい」と、パフォーマンスの高さを強調していた。
トレーニングセンターの文さんもスペックを維持するためにはメカニックも高度なスキルを備えている必要があるとし、本国のトレーニングプログラムに加え、日本での独自のプログラムを導入していると説明する。
3つのランクを設定
トレーニングメニューは上位から、▽ゴールド▽シルバー▽ブロンズ──の3ランク設定されている。「上位クラスへは、各ランクを修了していないと昇格できないシステムになっています。また、ブロンズは二輪車について全く知識がない人が参加する場合もあり、しっかり理解が得られるメニューを導入しています」と説明する。
初級とも言うべきブロンズメニューでは、販売店での一般業務から、メンテナンスマニュアルの使い方、診断機の使い方などを学び、「パソコン上で扱うメンテマニュアルは1モデルだけで、数百ページあります。使い方を習得するだけでもスキルが必要です」と続ける。
シルバーはエンジンの構造理解・分解や組み立てなどを行う。また、各ブランドに搭載されるWPサスペンションの構造理解・分解、組み立ても学ぶ内容となっている。最上位であるゴールドは電気と電子部品装備の理解、制御内容やインジェクションシステムの構造・理解や回路図などを学ぶ。インジェクションシステムもサプライヤー別で異なるシステムにも対応できるようになっている。
シルバーランクと比べると、研修内容も一段ステップアップするようで「私が自動車メーカーでトレーニング業務を担当していた時も同じような内容の研修を導入したのですが、その時は作業者のスキルが向上するなど高い実績が出ました。構造が分かると応用が効きますから」と、説明する。また、トレーニングセンターの目的はそれだけではなく、各ブランドのモデル別の故障診断など実践的なプログラムを導入しているという。
トレーニングの受講だが、申し込み制で個人や店舗のシフトに合った日程で申し込んでもらう方式となっている。各ランクは修了予定まで毎日研修を受けるスケジュールとなっているので、1回の参加でランクが修了・認定されるようになっている。
今回の取材には東京都、静岡県、京都府の販売店に勤めるスタッフ5人が参加。シルバーランクのトレーニングで、研修2日目のメニューを実施。メニューはエンジンの分解・整備・組み立てでV型2気筒エンジンの「LC8」と並列2気筒の「LC8c」を教材に使用していた。
指示されるのではなく、理解できているかが重要
トレーニングは対話形式で進められる。分解を進める中で最初に手を付けるボルトの確認や“なぜそれが最初なのか”参加者に質問をして、回答してもらうスタイルとなっている。「指示をされて行うのではなく、理解できているかが重要です」とは文さんの言葉だ。また、整備をする上でミスが出やすい所に取り組みながら学べるものとなっている。
ユニークだと感じたのが、デジタルツール(マイクロメーター)も用意しているが、目視で測定する方法を採っていたこと。文さんは「デジタル表示のツールを使うと楽ですが、なくても測定できる方法を知っておくことは測定の理解に繋がります。また、手技の習得のためでもあります」と、説明する。
SST(スペシャルサービスツール=特殊工具)も用意しており、その使い方もレクチャーされる。エンジン内部はシビアな精度を要求される箇所も少なくないが、使用することで、簡単に短時間で作業が進められるだけに参加者は全員、真剣に取り組んでいた。
シルバートレーニングでは3日目以降はWPサスペンションの分解・整備等のメニューに取り掛かり、4日目で終了検定を受けて合格後晴れてランク認定者になる。
文さんは今後のトレーニング業務について「全販売店のスタッフにゴールドランクを取得してもらうのが目標です。そうすることでスキルの高い業務がこなすことができ、その結果、お客様にも喜ばれ信頼される店舗になると思います。でも、トレーニングに終わりはありません。各ブランドで得意としているジャンルがあり、例えばGASGASだとトライアル競技に強みのあるブランドなので、その競技についても理解する必要があります」と述べた。